2024年11月22日(金)

ベストセラーで読むアメリカ

2018年10月5日

トランプ帝国における女たちの戦い

 本書では、筆者が女性ならではの読みどころが満載である点も見逃せない。トランプ政権で要職に登用された女性に対しては時に、厳しい評価を下す。ライバル心からだろうか。特に、仕事でも衝突したデボス教育長官には手厳しい。教育長官のBetsy Devosのことを、トランプが日ごろ、ファーストネームを「ばかな(Ditzy )」という意味の単語と入れ替えてDitzy DeVosと呼んでいることを明かしている。とにかく、教育長官として不適格であるとオマロサは本書で攻撃している。仕事を邪魔された一幕も紹介するなど、教育長官のことをよほど嫌いなようだ。トランプ帝国における女たちの戦いを、のぞき見した感じだ。

 メラニア夫人に向ける視線も鋭い。外遊中にトランプが飛行機のタラップで、同行していたメラニア夫人の手を握ろうとした際、夫人が髪を直す仕草をして手をつなぐことを拒んだシーンがあった。本書は次のように解説する。

 Unlike the past, when she had no recourse or influence, she no longer had to accept her powerlessness. I believe that by avoiding Donald's clasp in public, Melania was grasping the full extent of her new power. At any time, if she so desired, she could humiliate him in public with small, ambiguous gestures, just as he’d openly humiliated her with his affairs and lascivious behavior for years. And there was nothing anyone could do to stop her.

 「なんの権限や権利を持たなかった過去とは違い、メラニアはもうトランプに無力なまま従順に従うつもりはない。公の場でトランプの手をとることを拒否したことで、メラニアは自分の思い通りになる新たな権力を手に入れたと思う。メラニアはいつでも、自分が望めば、さりげない些細な仕草をつかってトランプを公の場で侮辱できる。ちょうど、トランプが数年にわたり、不倫やふしだらな行いでメラニアを公然と辱めてきたのと同じように。そして、メラニアを止める手立てはなにもないのだ」

 本書によると、トランプとメラニアはそもそも日ごろ、あまり会話をしないという。そのかわりというわけではないのだろうが、トランプはなにか相談ごとがあると、最初の妻だったイヴァナによく電話してアドバイスを求めるという。

 こうしたこぼれ話は、女たちの戦いに限ったものではない。大統領の就任式で聖書に手をのせ宣誓する儀式で、聖書の代わりに自分が書いた本を使うことを、トランプが真剣に考えていたというエピソードには思わず吹き出した。「大統領就任式、特別エディション」を出版すればかなり売れるのではないかとトランプはオマロサにもらしていた。トランプはホワイトハウスの主となってから数か月は、いろんな部屋に大統領選挙の地域ごとの得票を示すアメリカ地図を掲げ、自分が選挙に勝ったことを繰り返し語り自慢していた様子も滑稽だ。ペンス大統領の取り巻きたちが、副大統領に「大統領」と冗談でわざと間違えて呼びかけているという暴露も、かなり面白い。こんな笑うに笑えないエピソードが満載だ。

 もちろん、トランプ政権の暴露本としてはいま現在は、著名記者のボブ・ウッドワードが上梓したFEARの方がベストセラーリストの1位に入っている。しかし、わたしはまだ読んでいなし、そろそろ飽きてきたので買うつもりもない。これまで出た類書が描きだしてきたトランプ像を根本から変えるような内容ではないだろうと予想できるからだ。今回とりあげた暴露本の方が断然、面白いはずだ。
 

  
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