2024年12月2日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2018年10月17日

 9月19-20日に行われたザルツブルグのEU首脳会議でBrexit交渉は行き詰まった。フランスをはじめ各国は、メイ首相の「チェッカーズ提案」を却下し、英国にEUの要求を呑むよう強く求めた。しかし、Brexitは、経済問題であるだけでなく安全保障問題でもある。Brexitをどういう風に処理するにせよ、西側同盟の団結を損なうことは避けなければならない。

 この点、9月24日付けでWalter Russell Mead(米バード大教授、米ハドソン研究所研究員)がウォール・ストリート・ジャーナル紙に寄稿した‘A Nasty Brexit Threatens the West’は、重要な問題提起である。同論説の主要点は次の通り。

(egal/iStock)

・米国は英国とEUとの間の議論にこれまで関与していないが、米国の立場からすると、英国を弱体化し英国とEUの関係を毒する「合意なきBrexit」は惨事である。それはNATOと米国の最も重要な同盟国の一つをむしばむ。そして、もしBrexitの災難の結果として過激化した労働党が政権を取れば大西洋同盟の将来がリスクに晒される。英国自体が分裂し得る。米国の観点からは、どういう風に離脱を処理するにせよ危険な世界において西側と同盟国の団結を維持するものであることが枢要である。

・Brexitは経済の問題であるだけではなく、不可避的に西側にとっての主要な安全保障上の関心事である。Brexit後の英国と他の西側の関係は単にEU内部の問題として評価し得るものではない。英国はEUを離脱するかも知れないが、米国が主導する西側同盟から離脱する訳ではない。

・メイ首相に対してきつく当たっている欧州の指導者は欧州に対する米国の支持を支える上で英国が果たしている役割を過小評価している。英国のように米国人の親愛の情が深く根付き広く感じられている欧州の国は他にない。柔軟性を欠くEUが復讐心から英国を懲罰しているという米国におけるパーセプションはEUに対する米国のEUに対する見方に深遠で長期にわたる影響を及ぼすであろう。

・Brexitに対する融通の利かないEUのアプローチはトランプ政権内部で欧州との全面的な貿易戦争と欧州の安全保障に対するコミットメントの縮小を主張する人々の立場を強めるであろう。もし欧州がNATOと大西洋を跨ぐパートナーシップに意義を見出すのであれば、同盟の結束の精神が狭い政治的考慮に優先する必要がある。

参考:Walter Russell Mead,‘A Nasty Brexit Threatens the West’(Wall Street Journal, September 24, 2018)
https://www.wsj.com/articles/a-nasty-brexit-threatens-the-west-1537831191


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