2024年11月22日(金)

WEDGE REPORT

2018年10月24日

ベネズエラ議会の発表

 ベネズエラには議会がふたつある。政府の傀儡となっている憲法制定議会と、投票により選ばれた議会(野党が牛耳っている)である。

 後者は中央銀行にかわり、インフレ率を独自に発表している。この7月には、年間インフレ(昨年6月~今年6月)は「4万6000%になった、年末までに10万%となる」と予測していた。ところが、9月には、前月8月の月間インフレを223・1%、年間(昨年8月~今年8月)は、20万%であったと発表し、議長のラファエル・グスマンは「これはお前の仕業だ。ニコラス(大統領のこと)、お前の作りだしたひどい災厄だ」と非難した。

 ところが、10月8日の発表では、年間(昨年9月~昨年9月)のインフレを48万8865%、年末まではなんと400万%超えを予測している。

 そして、その翌日、IMFは負けじと来年のインフレは1000万%と発表したのである。まさに、7月以降はIMFとベネズエラ議会が呼応するように次々と高いインフレ数値を発表している。これでは世間のインフレ期待が一層高まり、デノミなど焼け石に水だ。

 実際、現在、現地通貨の下落率よりもインフレ率のほうが高い状況となり、ドル建てで物価は日本と同程度かそれ以上、給与は日本の500分の1のようなありさまとなっているという。外貨を持たない人間には暮らせる世界ではない。

 ではなぜ、IMFはこのような発表をするのだろうか?

政権交代を望むアメリカの怒り

 ベネズエラの原油埋蔵量は世界一だといわれている。もともとベネズエラの原油はエクソンモービルをはじめとする欧米企業が採掘し、プラントを建設・運営していた。ところが、チャべス政権以降の一層の国営化で、彼らは撤退した。たとえば私が携わっていたのは、オリノコ重油を精製するための新規プラントだが、そこにある旧プラントは以前欧米の資本が入っていた。新規の事業に携わったのは、中国と韓国の企業、そして日本企業が彼らのお目付け役として参入した。

 アメリカの裏庭といわれる地域の産油国が超反米なのである。今はシェールオイルがあるので、かつてほどの価値はないとはいえ、ジオポリテックスの観点からベネズエラを反米に追いやったのは、アメリカの失態といえよう。

 さて、どうする。

 思い出すのは、コカイン密売の国家として、パナマにアメリカ軍が進攻し、大統領のノリエガを麻薬密輸の罪でアメリカに収監した事件(1989年~90)である。以前のようにベネズエラに侵攻し、親米政権を打ち立てたいのが本音だろう。

 けれども状況は違う。南米諸国は、ベネズエラの独裁を非難しているが、アメリカの侵攻には大反発をする。しかも、ベネズラの原油は中国の担保に入っているし、武器は戦闘機のスホイを初めロシア製品を購入している。私のマンションの部屋の以前の住民はスホイの技術者だった。

 トランプ政権は、すべての選択肢があるとして、武力攻撃を口先で仄めかすが、実現は不可能であろう。そこで口撃である。

 IMFはアメリカ合衆国の首都ワシントンD.C.に位置し、アメリカの意向が強い組織で、議決権も15%以上を持つ。2位~3位を占める日本、中国はそれぞれ6%ほどである。今回のインフレ率の発表もアメリカ政府の意を受けているか、担当者が忖度していると考えて間違いない。新たなショック療法といえる。究極の目標は政権の崩壊、親米政権の誕生にある。ところがどれほど経済が悪化し、国民が国を去ろうとも、ベネズエラの現政権はしぶとく倒れない。なぜか?


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