2022年8月10日(水)

世界で火花を散らすパブリック・ディプロマシーという戦い

2018年11月1日

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桒原響子 (くわはら・きょうこ)

日本国際問題研究所研究員

1993年生まれ。大阪大学大学院国際公共政策研究科修士課程修了。外務省大臣官房戦略的対外発信拠点室外務事務官、未来工学研究所研究員などを経て、現職。京都大学レジリエンス実践ユニット特任助教などを兼務。近著に『なぜ日本の「正しさ」は世界に伝わらないのか 日中韓熾烈なイメージ戦』(ウェッジ)。
 

中央アジアで対立する中露

 中国がなりふり構わぬPDを展開してきたのは、米国においてだけではないのだ。中国は、中央アジア、東南アジア、アフリカ、さらにはヨーロッパでも独自のPDを展開している。ここではまず、中央アジアや東南アジアにおける中国のシャープパワーとPDの実態について見ていきたい。

 近年、中央アジアにおける中国の影響力が急速に高まってきており、中露がシャープパワーの行使合戦を展開する事態にまで発展している。中央アジアには、旧ソ連構成国が多く存在しており、いまだロシアの影響力が大きく、「ロシアの裏庭」とも称される。その中央アジアで、中国は、「一帯一路」構想を軸に、徐々に経済的影響力を拡大させるなどし、プレゼンスを高めている。

 そうなれば、同地域における中露の利害は対立し、両国関係は競争関係に発展する。実際、ロシアは裏で中央アジアの反中勢力を支援している可能性があるともいわれている。

 中国メディアによると、2018年2月、米メディアが「中央アジア地域をターゲットにしたロシアメディアが、『中国がロシアの盟友ではない』ことや、『中央アジアの取り込みを図る中国の動向に注意すべきだ』といった内容の報道を行っている」と報じた。

 中央アジアにとって、ロシアは長年に渡り主要な貿易相手国であり続けているが、最近では、ロシアと中央アジア諸国間の商業的つながりは中国に押されぎみだ。その背景には、2014年以降のロシア経済の減速がある。例えば、2016年の中央アジア諸国とロシアとの貿易総額は186億ドルだが、これに対し中国との貿易総額は300億ドルと、中国がロシアを大きく上回った。

 さらに、中国が、同地域における経済的拡張のみならず、軍事的拡張を推進しているという見方もある。中国がタジキスタンにも新たに軍事基地を建設する可能性も示唆されている。

 また、文化面での中国の中央アジアへの進出も顕著である。例えば、中国のPDを代表する孔子学院の設置だ。中央アジアには、現在13の孔子学院が設置されている(タジキスタン2、ウズベキスタン2、キルギスタン4、カザフスタン5)。2016年、習近平国家主席の彭麗媛夫人が、ウズベキスタンのカリモフ前大統領夫人とともに首都タシケントの孔子学院を訪問し、ここが中央アジアにおける中国のプレゼンスのハブとなっていることを印象付けた。この孔子学院は、2005年、中国が中央アジアで初めて開設したものである。

 こうした、PDを基調とした中国の中央アジアへの進出に対して、ロシアが、同地域における中国の活動を貶めるような働きかけ、いわゆる「シャープパワー」を行使するという実態が見え隠れする。しかし、ロシアにとっては、中央アジア諸国を取り込もうとする中国の活動が「シャープパワー」である。つまり中露は、中央アジアを舞台に「シャープパワー」の行使合戦を行っているともいえるのだ。

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