WEDGE REPORT

2018年11月1日

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敗北した労働党の「誤算」

 しかし、ボルソナロ氏の勝因を考える時、もう一つ重要なことがある。特に今回の決選投票で顕著だったのは、国民の中に「反PT感情」が強く根を張っていたことである。「PTが再び権力を手にすることだけは御免だ」、そう考えた国民は、PTか極右かの選択で極右に票を投じた。それは、PTにより資産を失った者だけでない。PTは政権に復帰すればペトロブラス疑獄をうやむやにするのではないかと多くの国民が疑い、もともとイデオロギー的に違和感を禁じ得なかった企業家もPTに対する反発を強めた。「ブラジルは第二のベネズエラになってはならない」。ブラジル政治の振り子が左から右へ大きく振れたのである。

 従ってアダジ陣営にとり、決選投票の戦略は如何にPT色を薄めるかにあった。アダジ氏は、補助金支出による放漫財政の転換を約束したし、それまで頻繁に行っていた収監中のイナシオ・ルーラ・ダ・シルバ元大統領訪問も取り止めた。自らとPTのかかわりを極力断つよう努めたのである。しかし、国民の反PT感情がこれほど強いとは思っていなかったに違いない。むしろ、貧困層はルーラ時代に浴した貧困対策の恩恵を忘れていないはずだと、ことさらルーラ後継を強調してきた。この点、アダジ陣営は国民の空気を読み違えたと言わざるを得ない。ボルソナロ氏はそこをつき、「アダジはルーラの操り人形」と執拗に攻撃した。結果的にこれが奏功したといえよう。

「社会の分断」から生まれた大統領

 ボルソナロ氏の勝因についてもう一つ重要な点として、「ブラジル社会の分断」を指摘しておきたい。既成政治と一線を画し、「既成政治が生んだ社会の混乱を正すことこそが自分に与えられた使命だ」、と主張するボルソナロ氏にとり、社会の分断は深まれば深まるほど利益になる。かくてボルソナロ氏はことさら対立をあおる戦略に出た。

 そもそも、今回の選挙は「反PT」と「反ボルソナロ」の戦いでもあった。ボルソナロ氏は勝利したが、ボルソナロ氏にだけは政権を渡したくないと考える有権者も多かった。つまり、ボルソナロ氏とアダジ氏に投票した有権者は、その双方がともに相手にだけは政権を取らせたくないと考えて投票した。双方の有権者の間には深い亀裂ができたのである。

 分断したブラジル社会を治癒し再び一体感を持った社会を作り上げることは大統領に当選したボルソナロ氏に与えられた重要な課題だが、同氏に分断を乗り越えようとの姿勢は見受けられない。何より同氏は分断により生まれた大統領なのである。

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