キャッシュレス経済への移行によるメリット
政府や経済学者は、マクロ経済パフォーマンスに与える影響の面においても、世代間格差に与える面においても、消費増税による財政再建の方がメリットが大きいと考えているものの、実際に消費増税が度々延期されてきたことからも、試算結果からも明らかになったように、国民の大半にとっては消費増税の負担増は大きい。
こうした国民の間にある根強い消費増税へのアレルギーを緩和するため、政府は目下様々な対策を決定もしくは検討中である。
例えば、外食と酒類を除く飲食料品等に対する軽減税率の導入は、大半の経済学者は強い拒否反応を示しているものの、先に見た試算の通り、飲食料品への支出の割合が大きい高齢者や低所得者対策としては効果的であろう。
もう一つ、政府は、電子マネーの普及などに伴い近年キャッシュレス化が進行しているとはいうものの、他の先進国や韓国などと比べてキャッシュレス決済は普及していない現状に鑑み、現時点では、キャッシュレス決済を普及させる狙いで、消費税率の10%への引き上げと軽減税率の導入に伴い、中小小売店舗でキャッシュレスにて買い物をした場合に限り、2%分をポイントで還元する仕組みの導入を企図している。
日常の買い物のキャッシュレス化には、店側では機器の導入コストや様々な手数料などランニングコストが重くのしかかる他、大規模自然災害による停電発生時の取引の確保等課題も多い。しかし、キャッシュレス化は、消費者にとってはATMから現金を引き出す時間や労力など取引コストを節約できるし、小売業者は現金の管理・運搬等にかかるコストを削減できる。さらに、消費者の購買行動に関するビッグデータが取引付随して集まるので、その購買行動を分析することでより効果的な販売活動、ひいては売り上げ増も期待できる。
また、キャッシュレス化の進行によって、大半の商取引が電子データで管理されれば、現金を用いるより遥かにカネの動きが透明化され、脱税やマネーロンダリングなどを抑止できるなど、税務処理の効率化や税収増が期待できる。税収増は当然将来の追加的な増税幅を圧縮させるだろう。
さらに、Moody'sが2016年に公表したカード決済の普及によるキャッシュレス化が経済に与える影響に関する報告書(“The Impact of Electronic Payments on Economic Growth”)によれば、2011年以降2015年まで世界経済全体で毎年740億ドル(日本円に換算すると8兆円強)分のGDPを増やす効果があったとのことである。さらに、キャッシュレス化が1%進むと0.04%ス日本の経済成長を押し上げる効果を持っているとしている。
以上のようなキャッシュレス経済への移行によるメリットを十分に発現できれば、消費税率引き上げに伴うマクロ経済や家計の負担増を軽減できる効果も期待できる。
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