年間4万円の賃上げで6万人分の人手不足が解消される
そもそも、現在の人手不足問題の背後にあるのは、好調な企業業績とは裏腹に労働者の賃上げに繋がっていない現状がある。経済学的には、人手不足が発生すれば、賃金が上昇することで次第に解消されていくはずだ。要すれば、労働者側では、以前の賃金水準では働く気がなかった者でも賃金が上がれば働きたいと考えるようになるし、企業側では、上がった賃金水準に見合う収益をもたらすプロジェクトに会社の資源を集中させるようになるため、労働力需要が減退することで、需給両面から人手不足が解消に向かっていくはずである。しかし、図3の通り、賃金はようやく近年下げ止まりの気配もあるが、人手不足が叫ばれる割には力強く上げに転じる様子がない。これでは、企業経営者は、国際競争力の維持を錦の御旗として、安い賃金で日本人労働者を酷使しておきながら、一転賃金の下げ止まりの気配がみられると、現状では日本人より相対的に安価な安い外国人労働力への切り替えを狙っていると批判されても言い訳に窮するのではなかろうか。
いま、賃金を1%上げた場合3、労働供給と労働需要が何万人増減するのか推計したところ、労働供給は2万人増加する一方、労働需要は4万人分減少するとの結果が得られた。つまり、賃金を年4万円増やせば6万人分の人手不足が解消できるのだから、機械的に試算すれば年間40万円弱賃金を上げるだけで法務省試算の人手不足58.6万人が解消することになる。
3:2016年の平均年間給与は400万円程度であり、1%の賃上げは4万円に相当する。
日本社会に大きなツケを残すな
もちろん、本推計結果はマクロの状況に過ぎず、産業毎のミスマッチもあるだろう。しかし、政府、財界ともまずは賃上げや女性や高齢者でも働きやすい環境の整備等を含めやれることは何でもやったうえで外国人労働力の解禁を国民に提案するのであればまだ理解も得られるだろう。しかし、現状のように、いずれも不十分なままで、国民の理解よりも財界利益を優先したと受け取れる移民政策の大転換をもたらす可能性のある法案を拙速に国会に提出することによって、成立した場合には、国民合意もなくなし崩し的に移民受け入れとなり、将来に禍根を残すだけだろうし、否決された場合には、今後の外国人労働力の受け入れが困難となり、将来労働力不足が確実にやってくる日本社会に大きなツケを残すことになる。
今回は、具体的な問題提起と国民的な議論喚起のきっかけにとどめ、もう少し時間をかけて冷静かつ慎重な議論が必要だと考えるのは筆者だけではあるまい。
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