前回の記事では、自民党若手議員が提案(2020年以降の経済財政構想小委員会「こども保険」の導入 ~世代間公平のための新たなフレームワークの構築~ 平成29年3月(以下、提言書))し、政府・自民党が創設を目指す「こども保険」に関して、日本の人口・経済的な背景、「こども保険」の概要そして「こども保険」の5つの意義について取り上げた。今回はこども保険の課題について取り上げる。
課題だらけの「こども保険」
(1)こども保険の導入の前にリーマンショック対応で膨らんだ歳出の削減をすべき
最近の政府歳出の規模の推移を決算額で見ると、リーマンショック前には82兆円弱だったものが、リーマンショックを契機に100兆円超にまで急拡大し、その後もほぼその水準を維持し、平成29年度当初予算では98兆円弱となっている。「こども保険」の創設に合わせて国が率先して身を切る歳出削減努力を行うという話も出てはいるものの、そもそもリーマンショックが去った後も財政規模は元の水準にまで縮小していないわけなので、どこまで信用できるか、はなはだ疑問である。
「こども保険」の創設の前にまずやるべきことは、リーマンショック以降20兆円弱水ぶくれした財政規模をもう一度見直すことである。そうすれば、わざわざ「こども保険」という新たな負担を求めずとも、「こども保険」で想定されている保険料率1%案(幼児教育・保育の実質無償化プラスより踏み込んだ施策(第一子に対する支援強化等))の実現に必要な財源約3.4兆円(未就学児1人当たり月5万円上乗せ)程度の財源は容易に捻出できる。
(2)「こども保険」は保険ではない
そもそも、社会保険は、社会保障の一つであり、社会保障は、①社会全体でリスクに備える機能(リスク・プーリング機能)、②リスクの発生そのものを軽減する機能(リスク軽減機能)、が期待されている。要すれば、例えば、医療保険は病気に罹患した場合のリスクに備える(リスク・プーリング機能)ために存在すると同時に、政府は公衆衛生により国民が病気に罹患するリスクそのものの軽減(リスク軽減機能)に努めなければならない。「こども保険」創設の目的は、「子どもが必要な保育・教育等を受けられないリスクを社会全体で支える」、「幼児教育・保育の負担を軽減する」こととされている。上述の通り、「こども保険」が社会保険であるためには、それに対応するリスクが存在しないといけないからで、提言書では「子どもが必要な保育・教育等を受けられない」ことを“リスク”とみなしている。
しかし、「子どもが必要な保育・教育等を受けられない」ことは、そもそもリスクとしてあってはならないものであるし、社会でプールすべきリスクなどではなく、供給量を増やして超過需要を解消したり、公的な補助を与えることで低所得層にも需要しやすくすればよいだけである。
また、社会保険は、医療保険・介護保険・公的年金のように、原則として、加入者の負担において、その給付が行われる制度である。つまり、原理原則で考えると、「こども保険」では、子育てリスクにこれから直面する世代が加入者となり受給者となるはずだ。しかし、実際には、「社会全体で子育て世代を支援する新たな保険制度」であり、保険料の負担者と給付を得る受益者とが一致しないという、そもそも保険原理から逸脱している点も問題として指摘できる。