2024年11月22日(金)

Wedge REPORT

2017年6月6日

(6)特別会計管理では無駄遣いが懸念される

「こども保険」の財源を社会保険に求めるとすれば、その資金は、当然、公的年金や医療、介護と同様、特別会計で管理されることとなる。特別会計は、税などの一般会計とは異なり、国会による監視の目が届きにくく、所管官庁や時の政権の意向により、財源を流用されやすい。例えば、公的年金に関しては、採算の取れないグリーンピアや年金・健康保険福祉施設、旧社会保険庁職員のための福利厚生等の年金給付以外の用途に流用されたり、雇用保険においては勤労者福祉施設の建設等に流用されていた。このような過去の経験に照らせば、「こども保険」が本来の目的以外の支出に流用されない保証はなく、無駄遣いが大いに懸念される。

(7)シルバー民主主義に正面から向き合うべき

 提言書では、子育て現役世帯を「社会全体で支える」とか、「社会保障給付における世代間公平を実現する」と謳っている割には、これまで同様、高齢者への負担増を回避している点も指摘できる。もし本当に社会全体で子育て現役世帯を支える制度とするのであれば、やはりすべての国民から薄く広く徴収できる消費税増税が本来あるべき財源調達の姿であろう。提言書では、後々高齢者の理解を得て社会保障給付費を削減するというが、なぜ現時点で高齢者の理解を得る努力をしないのか、全く理解できない。

 こうした不可解な言行不一致に関する一つのあり得る解釈として、高齢者に負担増を求めないことで高齢者の票を従前通り見込んだまま、教育や保育をだしに現役世帯の票の取り込みのための新たなバラマキの手段として「こども保険」を考えていると指摘できる。残念ながら、社会保険料に上乗せする「こども保険」は、現役世帯のみが負担するように制度設計されており、シルバー民主主義に正面から向き合っていない、あるいは戦わずにシルバー民主主義の前に平伏していると言える。

 今後、少子化、高齢化が進行し、年齢別の投票率が変化しないとすれば、民意の高齢化はいっそう進行し、今以上にシルバー民主主義の嵐は強くなるのは確実である。そうだとすると、団塊の世代が後期高齢者となりはじめ、高齢者向け支出のさらなる増加が懸念される2020年をタイムリミットと考えると、抜本的な改革の断行に残された時間は少ない。

 「社会全体で子育て現役世帯を支える」という大義名分を本気で実現するつもりなのなら、シルバー民主主義に正面から向き合い、高齢者を説得することでシルバー民主主義を克服するべきだ。それができれば、高齢者偏重の社会保障給付を弱体化する一方の現役世帯へ回すことが可能となり、現役世帯が社会を支える力を取り戻す契機となる。

(8)企業負担の増加で雇用と成長が失われる懸念あり

 提言書では、「こども保険」は、保険料率が低い限り経済への影響が少ないことをメリットとして挙げている。しかし、所得に課せられる「こども保険」は、個人から見れば、所得税と同等でもあるので、ただでさえ少子化、高齢化で低下しているマクロの貯蓄率をさらに押し下げることとなり、日本の経済成長率を押し下げるネガティブ効果を持つ。一方、企業の側から見ると、「こども保険」では企業負担も求められており、当然、法人税的な効果を持つこととなる。これ以上負担が増えれば、日本企業の国際競争力や雇用吸収力が失われ、かえって雇用を喪失する恐れもあるし、そもそも、国を挙げて法人税減税に取り組んでいる流れに逆行することとなる。

 以上から、「こども保険」は、日本の経済成長率を低下させるとともに、雇用を喪失あるいは雇用の劣化をいっそう進行させ、結果として、現役世帯のさらなる弱体化を招く可能性が高い。


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