2024年11月22日(金)

Wedge REPORT

2017年6月6日

(3)「こども保険」は世代内の格差を拡大させる

 提言書では、財源調達手段としての消費税に対する「こども保険」の優位点として、負担が逆進的ではない点を挙げている。しかし、消費税は、生涯を通して見れば、消費水準は所得水準に比例した水準となるため、結局、負担能力に応じた負担となり、逆進的とは言えない。逆に、保険料の場合、実は非常に逆進性が強く、特に国民年金保険料は定額なので逆進性が高い。総務省統計局「平成27年家計調査報告」によれば、所得階層別の社会保険料負担割合は、所得水準下位10%では10.3%であるのに対して、上位10%では8.7%と逆進性が著しい。つまり、社会保険料に上乗せされる「こども保険」は、提言書の指摘とは正反対に世代内格差を拡大させるのだ。

(4)負担と給付のリンクが薄弱

 提言書では、「こども保険」のメリットとしてもう一つ、社会保険であるため、給付と負担の関係が明確である点を挙げている。この点について、日本の社会保険制度の財源構成を見ると、保険料収入は全体の4割程度に過ぎず、残りは保険料収入以外の一般財源(つまり税金)や他制度からの移転財源が投入されていて、実は、負担と給付はリンクしていない。つまり、そもそもが事実誤認であるという問題はさておき、仮に「こども保険」は支払われた保険料がそっくりそのまま給付として戻ってくる制度設計がなされる前提としても、子供のいない現役世帯や子育てが終了した現役世帯は負担を負う一方で給付を受けられないため、給付と負担はリンクしていない。社会保険の給付と負担のリンクが、現在以上に弱くなっていくと、次第に社会保険制度への信頼が揺らぎ、やがては保険料の引き上げ自体も困難になり、最終的には、社会保障制度を崩壊させてしまうリスクを孕む。

(5)財源調達は税で行うべき

 提言書に付属する「「こども保険」Q&A」では、「子どもが増えれば、人口減少に歯止めがかかり、経済・財政や社会保障の持続可能性が高まる。こども保険の導入により、企業や勤労者を含め、全ての国民にとって恩恵があり、就学前の子どもがいない世帯にとっても、間接的な利益がある。」としているが、これは、単に子供は公共財であるとの指摘にほかならない。もしこの論法が成り立つのであれば、国防は、外国からの軍事攻撃リスクに備えるためのものであり、すべての国民にとって恩恵が及ぶものであるから、税ではなく社会保険の対象となり得るだろう。

 子供が将来の社会を支える存在であり、安全保障や外交、司法と同じように公共財だと考えるならば、社会保険ではなく税金で対応すべしというのが経済学の基本原則である。全国民に恩恵が及ぶのであれば、わざわざ屁理屈をこねて社会保険とするのではなく、正面切って、負担が必要であれば税で負担をお願いすればよいだけだ。

 結局、「こども保険」は、幼児教育・保育の実質無償化が目的であり、リスクに備えるという点は、後付けの理屈に過ぎず、その理念が極めて曖昧な名ばかり保険と言わざるを得ない。要は、本来は、その他の子育て支援策と同様、税で賄うべきものであるはずなのに、シルバー民主主義という岩盤を回避し、国民への説明や説得義務を最初から放棄する安易な道を選択したため、源泉徴収のおかげで実際の保険料負担が見えにくく痛税感も少なく、その結果票を減らさないであろう社会保険という「取りやすいところから取る」ことになってしまった。


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