2024年11月22日(金)

オトナの教養 週末の一冊

2019年1月11日

――本書を読んでいると中国人の方々は非常に子どもの教育に熱心ですね。これには理由があるのでしょうか?

『日本の「中国人」社会』
(中島 恵、日本経済新聞出版社)

中島:まず、日本(海外)に住んでいるから教育熱心ということもありますが、本国の中国ではもっと競争が熾烈なため、自然と日本でも同じような感覚で教育に熱が入るようです。また、日本では中国人はマイノリティ(少数派)です。日本人も海外に出れば同じですが、マイノリティとして海外で生きていくためには、何事も、その国の人よりも努力しなければなりません。

――本書に出てくる例として、日本の教育はゆるく、理系の科目は日本の中学3年生は中国の小学校4年生相当だと。

中島:あれはあくまで極端な例です。日本にもさまざまなレベルの学校がありますから一概には言えません。

 そもそも日本と中国では学校の位置づけや存在のようなものが違います。日本の学校は勉強の他に掃除や給食当番、部活動と総合的に生活の指導を行っている印象を受けます。これに対し、中国の学校は丸暗記の勉強が主です。そうした中国の感覚からすると、日本の学校は宿題が少ない、部活動をするくらいなら、もっと勉強をさせたほうがよいなどと思い、日本の教育を「ゆるい」と感じる親もいるようです。ただし、日本の教育の方針を理解し、そのよさをきちんと認めている中国人もいます。

――大人に目を移すと、これだけ経済発展した中国で会社を起こしたらもっと大成功していたかもしれない、と考えてしまうネット企業の社長さんの話も出てきました。

中島:いつ来日したのか、その時期にもよりますし、これほどまでに中国が経済発展を遂げるとは誰も思ってもいなかったでしょう。それで故郷に帰り、同窓会などで同級生と顔を合わせると小富豪になっている場合がある。それを見るとつい「自分がもし中国に住んでいたら・・・」と思ってしまうこともあるようです。

 しかし、中国はそうしたビッグになるビジネスチャンスも多い一方で、誰かに足を引っ張られるケースもあり、リスクもとても多い。日本だと、そこでまで成功しないかもしれませんが、そこそこの成功を収めることができる。

――日本だとなかなか大当たりはしないけど、という感じですね。

中島:大成功する人は稀で、そういう人はきっとどの国でも成功すると思うんです。

 逆に、中国で大成功しているビジネスマンは、日本で大成功していなくてもほどほどの生活をしている彼らを羨ましく思っているかもしれません。大富豪になれなくても、日本のほうが生活にゆとりがありますので。いまでも中国社会には目に見えないさまざまな制限や制約があります。日本でビジネスを営み、生活すればもっといろいろな経験ができる。そこはお金には代えがたい面もあるのではないでしょうか。

――2000年から約3倍も増えた在日中国人ですが、今後さらに増えると予想されますか?

中島:現在、中国とアメリカの関係は悪化していますから、アメリカへ留学したり、アメリカでビジネスをしたいと思う中国人は少しずつ減っていくと思います。そうなると、その分が日本やヨーロッパの国々に向かうと予想されます。それに富裕層はますます子どもを留学させたいと考えますので、減ることは考えづらいですね。

――最後に、本書に興味を持った人たちへメッセージをお願いします。

中島:中国や中国人と一口に言っても、あまりにも広大で多様なため、日本人の物差しではなかなか理解しづらいことが多々あります。巨大な中国を理解するのは難しいことですが、まずは日本に住む在日中国人を糸口として理解するのはひとつの方法だと思います。

 また、日本人の中国人に対するイメージも10年以上前、20年以上前の、たとえば不法滞在の中国人といったネガティブなイメージのままで止まってしまっている。しかし、現在では料理人やマッサージ師さんだけでなく、大手企業のエリート会社員や大学教授まで、実に幅広い職に就き、日本で暮らしています。この現実にぜひ目を向けていただけたらと思います。

 特に、現在議論されている外国人労働者の受け入れ問題を考える際には、こうした幅広い意味での在日外国人の現状をまず理解し、情報を共有していくべきではないかと思っています。

  
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