食の安全 常識・非常識

2011年10月12日

»著者プロフィール
著者
閉じる

松永和紀 (まつなが・わき)

科学ジャーナリスト

1963年生まれ。89年、京都大学大学院農学研究科修士課程修了(農芸化学専攻)。毎日新聞社に記者として10年間勤めたのち、フリーの科学ジャーナリストに。主な著書は『踊る「食の安全」 農薬から見える日本の食卓』(家の光協会)、『食の安全と環境 「気分のエコ」にはだまされない』(日本評論社)、『効かない健康食品 危ない天然・自然』(光文社新書)など。『メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学』(同)で科学ジャーナリスト賞受賞。「第三者委員会報告書格付け委員会」にも加わり、企業の第三者報告書にも目を光らせている。

福島の牛乳から検出された放射性ヨウ素(上)、放射性セシウム(下)の推移
(農水省まとめより作成)
拡大画像表示

 同県内の酪農家には、「降下した放射性物質が付いた飼料は食べさせないように」という情報が伝えられました。3月16日から原乳の検査が始まりましたが、この時点での放射性ヨウ素の数値は非常に高くなっています。しかし、これらの原乳は出荷されていません。

 そして、飼料の管理が進み数値の推移が確認され、暫定規制値を大きく下回る数値が続くことが確認されたうえで、4月8日にまず、同県会津地方で出荷制限が解かれ、乳業工場が再稼働しました。会津地方は、放射性物質の降下量が比較的少なく空間線量が低い地域です。

 その後、他地域でも、同様に数値の動向をみて数値が低いことが確認されたうえで出荷制限が解かれて、順次乳業工場は再稼働しています。

 つまり、もっとも懸念された時期には、福島の牛乳は市民の口には入っていないのです。

「人工的」な牛舎内飼育のおかげで
放射性物質汚染を免れた

 では、周辺他県は? 茨城県が興味深い検査結果を出しています。同県は、東海村を抱えているために、放射性物質を精密に測れる分析機器を備え、他県よりも早く検査を始めました。3月19日〜22日の原乳検査を見ると、牛舎内で飼育されていた牛の原乳は放射性ヨウ素、セシウム共に低い一方、放牧の原乳の結果は暫定規制値を上回る結果でした。放牧の牛は屋外の草を食んでいたのでしょう。

 報告を受けて厚労省、茨城県は3月23日、慌てて同県の牛乳の出荷制限に踏み切りました。放牧の生産者はごくわずかですが、牛舎内飼育か放牧かを問わず出荷をストップさせるという、非常に安全側に立った対策をとったのです。

 これまで、放牧せず牛舎内で飼育し輸入飼料に依存する日本の酪農はとかく、「人工的だ」などと農業経済学者や有機農家などの批判を浴びて来ました。ところが皮肉なことにこの方式だったので、牛乳の多くは放射性物質汚染を免れました。

 牛乳は、福島と茨城両県以外では出荷制限がかかりませんでした。周辺各県はこの時期、福島、茨城両県のように原乳の検査をひんぱんに行っていたわけではなく、行政対応としては非常に大きな問題がありました。しかし、周辺各県も放牧はごく少なく輸入飼料に依存しているのは同じなので、放射性物質に高く汚染された牛乳が連日、消費者に提供される事態は避けられたとみられます。

 検査の結果を見ても、福島県産の放射性ヨウ素は当初高く、次第に下がったことが分かります。現在は、半減期の短い放射性ヨウ素は当然、検出されませんし、放射性セシウムも不検出(検出限界未満)か非常に低い数値です。

 以上のことから、チェルノブイリの事例を引いて「牛乳が危ない」としてはいけないのは明白です。ところが、未だにこうした発言をする識者や雑誌、書籍などが後を絶たないのです。

関連記事

新着記事

»もっと見る