驚きのアートを生み出す「小さな職人」の正体
ところで、やや年代物のこの器の面白みを演出している、小さな不揃いの丸い輪の正体をご存知だろうか。
初めて目にしたときは、「な、なにこれ……?!」と、思ったが、この丸い輪の正体を職人さんに聞くと、菜種だというからびっくり。家庭でよく使われる菜種油の原材料、菜種がこんなアートを生み出した張本人なのである。多くは青森県の横浜で栽培されている。津軽塗りは、何度も漆を塗り重ねて研ぎ出して作られるのが特徴である。漆を塗った後に、漆が乾くか、乾かないかの絶妙な頃合いを見計らって、菜種を前面に撒くのだ。そして、乾ききる前に菜種油を木べらで剥ぎ取る。
すると凹凸が生まれる。その上に赤い漆を塗り、研ぎ出すと凹凸によってこのようなアートが生まれるのだ。この丸い輪、和えるで作っている『青森県から 津軽塗りの こぼしにくいコップ』よりも輪の大きさが大きいなぁと思い、職人さんに聞いてみたら、年代物なので昔の菜種を使っているからだろうとのこと。
どういうことかというと、菜種も長い年月の中で品種改良されてきた結果、近年の菜種は小粒になってきているとのこと。だから、輪の直径が小さくなっているのだ。うーん、面白い。輪の直径で作られた時期がなんとなくわかるのだ。