2024年12月10日(火)

中東を読み解く

2019年2月12日

牙を隠すタリバン

 公表30万人を超えるアフガン治安部隊がタリバンに有効に対処できない理由の1つは政府や軍の隅々まではびこる腐敗だ。文書仕事1つするにも賄賂がないと動かない上、名前だけ軍に登録している“幽霊兵士”がかなりの数に上っているからだ。“幽霊兵士”分の給料は上官がポケットに入れており、士気の低下は著しい。

 イスラムでは元々、金持ちが弱者に「喜捨」をすることは義務の1つであり、“バクシーシ社会”といわれる所以でもある。バクシーシとは、心づけといった意味。イスラム世界の潤滑油といわれるが、アフガンではこれが半端ではない。他民族が入り乱れ、各部族や軍閥の長が隠然たる力を持っているため、何段階にもわたってバクシーシが必要になってくる。

 トランプ大統領には、こうした「ドツボにはまった状況」(アナリスト)から一刻も早く抜け出したいという気持ちがことのほか強い。とにかく、タリバンとの和平合意で、形の上だけでも政治的解決に向けた道筋をつけ、後はアフガン政府とタリバンによる当事者同士の直接交渉に丸投げしようとしているのが見え見えだ。

 タリバンは「長期の戦争に嫌気がさし、一刻も早く逃げ出したい」という米国の足元をしっかりと見ている。米国との協議でも「タリバンは過去の過ちを反省しており、軍事的な解決は求めていない」(ハリルザド米交渉代表)と過激な言動を自重して見せている。

 このほどモスクワで行われた「アフガン和平会議」でもタリバンの代表は「単独政権は目指さない」「イスラムの教えにある女性の権利は認める」と述べるなど、過激な思想を封印して融和的な態度を前面に出し、穏健な政治運動という姿の演出に努めた。

 だが、タリバンの穏健な姿勢は米国が撤退するまでの一時しのぎ、という見方が強い。「彼らがイスラム原理主義思想を変えたという話はない。米国が撤退しやすいよう戦術を若干変えただけだ。米国がいなくなれば、すぐに本来の牙をむくだろう」(ベイルート筋)。米国が撤退すれば、平和は到来しないどころか、タリバン支配の暗黒時代が戻る懸念は十分ある。

 7月に大統領選挙を控えるガニ大統領はこのほど、トランプ大統領に書簡を出し、米軍が完全撤退しないよう泣きついた。タリバンが戻れば、ガニ大統領の命さえ危うくなる恐れがあるが、トランプ大統領がこの訴えを聞き入れる可能性はほとんどないだろう。


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