2024年11月22日(金)

古希バックパッカー海外放浪記

2019年2月17日

エルサレム参拝無料ツアーとは?

 3月18日。ニューヨーク州北部のバッファロー出身のビル26歳がチェックインしてきた。大柄で髭面のぶっきらぼうというのが初対面の印象。

 ビルは中欧に入る前にイスラエルを10日間旅行してきた。ビルの父親はユダヤ人であるが、ビル自身はユダヤ教徒という意識もなくユダヤ人としてのアイデンティティーも乏しいという。ユダヤ教の教会であるシナゴーグには何年も行ったことがないという。

 彼がイスラエルを訪問したのは特にイスラエルに興味があったということではなくて、“無料”につられて地元のユダヤ人コミュニティーが募集していたイスラエル体験無料ツアーに応募したからである。

 トランプ大統領が米国大使館をテルアビブからエルサレムに移転したようにトランプ大統領は支持層固めのためにユダヤ人や米国保守層の中核である福音派(evangelists)寄りの姿勢を明確にしている。

 ビルによるとトランプ大統領になって米国ではイスラエル支援運動が格段に盛り上がっているという。イスラエル支援に若者を呼び込むために体験無料ツアーが頻繁に実施されているようだ。

自分の良心だけに忠実な生き方

 ビル自身は「無料ツアーは有難いけど、イスラエルの聖地を歩いたことは自分の人生に特に影響はないよ」とサバサバしている。ビルは高校中退して転々と職を変えてきた若者で思想信条は特にない。大柄でもっさりとした風采の上がらないタイプである。

 しかしノアの箱舟を史実と信じて進化論を敵視するような真面目で熱心なエヴァンジェリスト(福音主義者)よりもビルのような“ゆるい”(≒寛容な?)人間の方が一緒にいて気持ちが安らぐと感じた。

 サラエボ紛争においてもギリシア正教を信奉するセルビア人によるイスラム教徒系住民に対する民族浄化(ethnic cleansing)にエスカレートした。民族や宗教や思想信条に基づく原理主義的正義感による分断が世界各地で深刻な問題を引き起こしていることを考えると、むしろビルのようなノンポリ的な生き方が救いであるように思われる。

 ビルは「子供が好きなので中欧旅行から戻ったら勉強して資格を取得して保育所(nursery)で働きたい」とささやかな抱負を吐露した。外見に似合わず優しい心根の青年であった。

⇒第7回につづく

  
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