2023年2月7日(火)

迷走する日本の「働き方改革」への処方箋

2019年3月6日

»著者プロフィール
著者
閉じる

立花 聡 (たちばな・さとし)

エリス・コンサルティング代表・法学博士

1964年生まれ。早稲田大学理工学部卒。LIXIL(当時トステム)東京本社勤務を経て、英ロイター通信社に入社。1994年から6年間、ロイター中国・東アジア日系市場統括マネージャーとして、上海と香港に駐在。2000年ロイター退職後、エリス・コンサルティングを創設、代表兼首席コンサルタントを務め、現在に至る。法学博士、経営学修士(MBA)。早稲田大学トランスナショナルHRM研究所招聘研究員。

 

日本の終身雇用の本質とは?

 法律上における「終身雇用」とは何を指しているのか。これを理解するために、海外の労働法令と比較してみよう。

 まず、日本の「労働基準法」第14条第1項「労働契約は、期間の定めのないものを除き、一定の事業の完了に必要な期間を定めるもののほかは、3年(次の各号のいずれかに該当する労働契約にあっては、5年)を超える期間について締結してはならない」

 次に、中国「労働契約法」第14条「無固定期間労働契約とは、雇用単位(訳注:使用者)と労働者が終了の時の確定がない旨を約定する労働契約をいう」

 最後にベトナム「労働法」第22条第1項a号「無期限労働契約とは、当事者双方が契約の期間および効力を終了する期限を確定しない契約である」

 この通り、日中越の労働法においていずれも、「終身雇用」という概念が使われていない。「終身雇用」は法的概念ではない。どうしてもというのなら、「終了の時(期限)の確定がない雇用」、あるいは「期間の定めのない雇用」である。つまり、「無期雇用」のことである。

 中国やベトナムの無固定期間や無期限労働契約は、雇用期間の長短という「量」の次元にのみ明示規定されている。これに対して、日本の場合は、雇用期間の長短という「量」に関係なく、企業と従業員の終身における「心理的契約」という「質」の要件が黙示されているのである。つまり雇用終了の出口(通常、定年退職を指す)について心理的な契約によって「約束手形」たるコミットメントがなされているのである。

終身雇用制度が崩壊したとき

 高度経済成長とバブル期を経て、今日の日本では、「約束手形」の現金化はすでに資源や財源が不足する状態になっている。その解決策というと、終身雇用制度に終止符を打つという選択肢がまず浮上する。

 実際に昨今の日本では、終身雇用制度ははたして機能しているかというと、結論的には「崩壊しつつある」よりも、一部の企業ですでに「崩壊している」様相を見せている。就業規則上では定年60歳となっているが、業績悪化を受けて早期退職や希望退職を募るケースは年々増加の一途をたどっている。いずれも「約束手形」の財源不足に起因する不本意な措置とみていいだろう。

 リストラ、あるいはリストラに近い非自発的な退職は日本社会でまだまだ、ネガティブに捉えられている向きが強い。社会全体に転職に有利なシステムも整備されていない。転職率は欧米に比べると低く、1つの企業に長期にわたって勤務し続けるという働き方を好む人が大多数である。このように、現時点では終身雇用制度の完全崩壊について、日本人は心の準備ができていないといってもいいだろう。

 そもそも、終身雇用制度の完全崩壊とはどんな状態なのか。単純化してしまえば、正社員制度の崩壊、つまり1億総非正規雇用化である。日本人は親しみのない完全競争社会に放り込まれ、日本社会の普遍的価値観に照らして善とされない「弱肉強食」現象と共存していかなければならなくなる。

 私自身も日系企業から欧米系企業への転職経験をもっている。欧米系企業に入った当初の1年は地獄のような世界だった。上司には即時成果の提示を迫られる一方、先輩はまったく仕事を教えてくれない。温情あふれる日系企業とサバイバル重視の外資、対照的な職場にストレスを感じずにはいられなかった。

 終身雇用制度の完全崩壊とともに、日本社会にこのような競争メカニズムが果たして定着するのだろうか。

連載:迷走する日本の「働き方改革」への処方箋

  
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。


新着記事

»もっと見る