2022年7月3日(日)

Wedge REPORT

2011年10月26日

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 農水省の試算は、「TPPでコメの関税が撤廃されると、海外から安いコメが流れ込み、新潟産コシヒカリや有機米等を除いた日本のコメのすべて、生産額にして1兆9700億円分が海外産に置き換わる」というものだ。日本のコメの年間生産量は850万トンだから、試算通りならその9割、700万トン超のコメが海外産に置き換わり、稲作は甚大な影響を受けることになる。

 しかし、日本のコメと同じ主食用短粒米(ジャポニカ米)の世界貿易量は、多く見積もっても年間200万トン程度しかない。コメの関税が撤廃されれば、海外で日本向け輸出のための増産や品種改良が進むだろうが、それでも700万トンが海外産に置き換わることはあり得ない。百歩譲って9割が置き換わったとしても、国内の水田の9割が消えてなくなるわけではない。稲作からの転作や他の農家への貸し出しによって、相当量の水田では耕作が続くはずだ。「農産物の生産減少額はコメなどで4兆1000億円に達し、食料自給率は現在の40%から14%に低下する」という農水省の試算結果は、現実離れした数字と言わざるを得ない。

 こんな結果が出るのは、試算の前提となる海外のコメの価格を1キロ=57円と、著しく安く設定しているからだ。この価格は日本が輸入したMA米の主食用短粒種の価格だが、直近の価格ではない。MA米の輸入が始まって以来最低だった2000年の価格なのだ。

 世界的な食糧価格の上昇を受けて、主食用のMA米価格は、09年度には1キロ=167円まで上昇している。10年以上も前の価格を持ち出し、海外のコメの価格競争力を過大評価しているのである。

 だが、どう試算してもコメの価格に内外価格差があるのは事実だ。関税を撤廃するなら、その差額は稲作農家への直接支払いという形で補填(ほてん)することが必要になる。反対派は、補填額が戸別所得補償予算の約4倍、1兆4500億円にのぼると試算し、「現在の財政事情でこんな補填ができるはずがない」と主張している。

 だが、この数字にもトリックがある。コメの国際価格を農水省の試算と同じ1キロ=57円と設定し、コメの国際価格を安く見積もった結果、補填に必要な額が膨らんでいるのである。

 ちなみに、キヤノングローバル戦略研究所の山下一仁研究主幹が2005~09年度の中国産の主食用MA米の平均価格から試算した結果では、補填に必要な額は6500億円と、半分以下に縮小する。支給対象を大規模稲作農家に絞り込めば、この額はさらに少なくなる。

 国際価格が安すぎるという反論に対しては、「中国国内の短粒種の市場価格は1キロ=50円程度であり、日本がコメの関税を撤廃すれば、こうした安いコメが大量に流入する」という再反論が用意されている。だが、コメへのこだわりが強い日本人が、どれほど中国産の安いコメを食べるだろうか。

 11年7月からは米トレーサビリティー法によって、海外産米の原産地表示が義務化される。外食産業は品質の良い国産米を海外産に切り替えることには慎重だ。日本のコメに対する信頼は極めて高いのである。

食料安全保障には何が必要か

 反対派の「TPPは農産物の国内自給率を下げ、食料安全保障を危うくする」という主張も、短絡的に過ぎる。食料価格が高くなれば、直ちに必要な食料が買えなくなる途上国と、価格が上昇しても輸入を継続できる日本とは安全保障の前提が異なる。そもそも、政府の自給率目標である50%を達成できたとしても、食料の半分は輸入に頼る状況に変わりはない。

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