2022年7月3日(日)

Wedge REPORT

2011年10月26日

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 ASEAN+3はもともと1997年のアジア通貨危機を受けて創設され、通貨金融協力(チェンマイ・イニシアチブ)や、食料の共同備蓄を強化している。日本にとっても有益なASEAN+3や+6があるのに、日本が米国主導のTPPに参加を検討しているのは、TPPに参加することが、ASEAN+3や+6の深化にもつながるからだ。

 ASEAN+3も+6も、核となるのは日中韓の3か国で、どちらの枠組みで自由化を進めるにしても、3か国のEPAが避けて通れない課題となる。だが、3か国は製造業を中心に世界市場で競い合っている。日本に農業を含めて大胆な自由化をする覚悟がなければ、中国も自動車など戦略分野の関税撤廃には応じないだろう。

 停滞した現状を打破するには、日本が中国より早く、中国の主要輸出先と大胆な自由化を進めればよい。そうなれば、日本に市場を奪われることを防ぐため、中国も自由化交渉を進めざるを得なくなり、日中EPAの道筋も見えてくる。TPPは日中EPAの環境を整え、ASEAN+3や+6による自由化交渉を進める効果があるのだ。

 EIAなど、他の自由化交渉についても事情は同じ。バイ協定が自由化交渉の主流になればなるほど、相手国を交渉のテーブルに引きずり出す戦術が必要になる。TPP は、その有効なツールになり得る。

 日米関係の重要性を考慮しても、TPPへの参加は、最も賢明な選択といえる。

 ASEAN+6は2005年に初の東アジアサミットを開き、クアラルンプール宣言を採択した。そこには「ASEANは20年をめどにASEAN 憲章を起草し、政治・安全保障、経済、社会・文化の3分野で地域統合を目指す」ことが明記されている。このサミットには日本も参加しているが、政治安全保障分野を主導するのは高い経済成長を遂げ、海軍力の増強著しい中国になるだろう。

 ASEANは日本のシーレーン上に位置し、地政学的にも重要な地域だ。そのASEANが、中国の主導で経済のみならず、政治・安全保障面で統合されれば、日米の安全保障にとって大きな脅威となる。

 中国の台頭でアジアの政治・経済情勢が大きく変化しつつある中、通商戦略はもはや外交・安全保障政策と無縁ではあり得ない。TPPは、東アジアのパワーバランスを均衡させる上で、重要な役割を果たし得る。

 米国はTPP交渉の場で、日本に対し米国産牛肉の輸入制限の撤廃や政府自治体の入札条件の緩和などを求めてくる可能性がある。「対米関係を重視するとしても、TPPより柔軟な交渉が見込める日米EPA交渉を始める方が得策だ」「WTOと異なり、TPPでは米国の輸出補助金は削減できない。日本がTPPに参加しても、米国に収奪されるだけだ」という主張もある。

 だが、アジア太平洋地域で米国が加わるEPAはTPPだけだ。米国のTPPに対するプレゼンスは極めて高く、米国がTPPを脇において日本との2国間EPA交渉に応じる可能性はほとんどない。

 また、P4協定は農産物の輸出補助金を撤廃し、再導入しないことを定めている。事実上輸出競争カの強化につながる「隠れ輸出補助金」については、確かにWTOでしか是正できないが、日本はTPPに参加しても、WTOを脱退するわけではない。貿易歪曲的な補助金の削減はWTOで主張すればよいのである。

農業は本当に壊滅するのか

 ここまでは主に通商戦略の観点からTPP参加の是非についてみてきたが、最大の焦点は日本経済にプラスのインパクトを与えるかどうかである。内閣府と経済産業省、そして農林水産省がそれぞれの立場から影響を試算しているが、最大の焦点は農業、特に稲作に与える影響をどう見るかだろう。

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