2022年7月3日(日)

Wedge REPORT

2011年10月26日

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「WTO回帰」論の真意

 にもかかわらず、農業団体などの反対派は、通商政策の転換につながるTPPは断固拒絶し、従来の漸進的な自由化で十分という姿勢を崩していない。JA全中の茂木守会長は、「日本がTPPに参加すると、食料輸入国という共通の立場のもと連携してきたスイスやノルウェーなどG10諸国はもちろん、わが国の主張に深い理解を示してきたEUやアジア諸国から、背信行為だと言われても返す言葉がなくなる」(月刊JA3月号)と述べている。今さら日本が過去の通商戦略を転換することなどできるわけがない、ということだろう。

 だが、これは杞憂に過ぎない。ほぼ全世界を対象とするWTOと、特定地域だけを適用対象とするTPPでは交渉の前提が異なる。日本がTPPで農産物の貿易自由化を進め、WTOで農産物の例外品目を主張しても何の問題もない。現に、FTAを積極的に進めている韓国は、WTOでは日本と同じG10に参加している。WTOでは大幅な関税削減に強硬に反対しているインドも、日本とのFTA交渉では大幅な関税撤廃を受け入れた。ベトナムは日本とEPAを結んでいるが、依然として日本の二輪車に90%もの関税を課している。日本のFTA・EPAが中途半端なことはこの例からも明らかなのだが、そのベトナムですら、TPPへの参加を表明している。通商交渉では、こんな二枚舌は当たり前なのだ。

 TPP反対派は、「貿易自由化には反対しないが、日本の農産品はすでに自由化が十分進んでいる」と主張し、その証拠に「日本の農産品の平均関税率は11.7%で、EUの20%より低い」というデータをあげる。しかし、この11.7%という数字は、経済協力開発機構(OECD) が1999年に発表した96年時点のものだ。

 当時はコメの輸入を原則禁止しつつ、例外的にミニマム・アクセス分だけ輸入しており、そもそも平均となる関税が存在しなかったため、コメは平均関税率の計算から除外されている。コメの関税化を踏まえた直近の日本の農産品の平均関税率(単純平均)は21.0%で、EUの13.5%、中国の15.6%より高い。それどころか、WTOが農産物の平均実行関税率を試算している120か国・地域の平均(15.3%)をも上回っている。

 ドーハ・ラウンドでは、農業分野の関税引き下げの例外となる「重要品目」を4~6%しか認めない議長案がすでに提示されている。貿易自由化には反対せず、WTO交渉を容認するというなら、この提案をのむ覚悟があるのか。自由化は十分進んでいると主張し、重要品目の拡大を主張して交渉を阻止するつもりなら、反対派の「WTO回帰」論は、ドーハ・ラウンドの決裂を見越した自由化先送り論と同じではないか。

TPPの政治的なプレゼンス

 農業団体の先送り論とは別に、「日本が推進すべきはTPPではなく、日米や日中、日・EUのEPAではないか」という意見もある。この主張を吟味するには、米国のTPP戦略を検証することが必要だ。

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 当初はP4協定という「小国の例外的な協定」だったTPPを、米国が「大国の協定」に変えようとする背景には、アジアをめぐる中国との覇権争いがある。

 輸出倍増計画を掲げ、成長著しいアジア市場を有望な輸出先にしたい米オバマ政権は、TPPをアジア戦略の最上位に置く。一方の中国は、ASEAN10カ国に中国、日本、韓国を加えた「ASEAN+3」を「東アジア共同体」に昇華させる構想を推進しようとしている。

 日本は経済統合が中国主導で進むことを警戒し、ASEAN+3に豪州、ニュージーランド、インドを加えた「ASEAN+6」を統合の母体としたい考えだ。2010年、日本で開催されたAPEC首脳会議で採択された「横浜ビジョン」は、アジア太平洋自由貿易地域(FTAAP)の母体として、米国が主導するTPP、中国が重視するASEAN+3に加え、日本が主張するASEAN+6も併記している。

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