2024年4月20日(土)

Wedge REPORT

2011年10月26日

 規制緩和や既得権の打破によって硬直化した経済全体の構造を変えなければならない。産業界には「工場の海外移転が進む中、貿易自由化の意味は薄いのではないか」という見方もあるが、TPP交渉国は、関税撤廃など「市場アクセス」のほかにも、仕事目的の出入国や滞在条件を話し合う「商用関係者の移動」や公共事業や物品の発注で国内外の企業を平等に扱う「政府調達」、環境規制の緩和を禁じる「環境」、「金融サービス」、「電子商取引」など、24分野について自由化の方策を検討している。「例外なき関税撤廃」という原則の前にすくむのではなく、その壁を乗り越えなければ、日本経済の再生は果たせない。

 P4が協定発効時に関税を即時撤廃したのは全品目の約8割にすぎない。残りは原則10年以内に段階的に撤廃することになっているが、チリは乳製品に12年の猶予期間を持たせている。TPPの主要国である米国と豪州が締結したEPAでは、米国の砂糖は関税撤廃の例外となっている。米国はTPP交渉でも砂糖を例外にするよう主張しているという。

 早期に参加を表明し、ルール作りに関与すればするほど、日本の主張が取り入れられる可能性は高くなる。臆測や誤解に基づく反対論を叫んで議論を遅らせても、得るものは何もない。

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 最後に、東日本大震災とTPPの関係について、若干の考察を加えておく。

 震災は宮城県など東北地方の稲作地帯を直撃した。津波によって浸水した農地は2万3600ヘクタールに及ぶという。回復には相当の時間がかかるのではないか。まず、農地の復旧と農家の支援に全力を挙げるべきだが、復興には意欲のある担い手への農地集約を進め、農地の大規模化を図る農政改革の視点も欠かせまい。都市の再建でも、震災前を上回る防災機能を持つ都市にするため、内外の資本を投入し、強力に都市計画を推進する必要があろう。

 東北地方には半導体や自動車部品などの産業が集積しており、その被害も大きかった。こうした工場が海外に移転してしまうことを避けなければならない。福島第一原発の深刻なトラブルで、日本に支店を置く海外法人の従業員や家族が日本を離れる事例も相次いだ。海外のヒト、モノ、カネを呼び戻す対策も急ぐべきだろう。

 何よりも、復興の財源確保のため、増発が確実な国債への信認を保つには、成長戦略を着実に進める必要がある。TPPの重要性は、何ら変わるものではないと考えるべきだ。


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