2024年12月23日(月)

野嶋剛が読み解くアジア最新事情

2019年3月19日

頼清德氏(右)と蔡英文氏(左)、写真は2017年9月、頼清德氏が蔡英文政権の行政院長として起用された時のもの(写真:AP/アフロ)

 台湾で与党民進党の次の総統選挙の候補者立候補手続きで、18日、元行政院長の賴清德氏が出馬を表明し、党本部に対して立候補を申し出た。すでに現職総統の蔡英文氏が出馬を表明しているため、蔡英文VS頼清德という2強対決構図の激しい党内選挙戦になることが事実上確定した形になった。

 頼清徳氏は出馬しないとの見方が大勢を占めているなかの出馬宣言に、台湾には驚きが広がった。台湾のベテラン政治家が筆者に語ったところによれば、17日の深夜、この人物に対して、頼清徳氏から電話があり、「自分の政治家人生を賭けて、チャレンジしたい」という内容の一報がなされたという。

 今後は、4月4日から9日までの間に候補者による政見発表会があり、世論調査の結果をもとに決まった候補者が4月17日に発表される。頼清徳氏は、人気では民進党の政治家のなかではナンバーワンだが、党内の主流派は現時点では蔡英文総統の再任を目指すことでほぼ一致しており、複雑な戦いになりそうだ。

頼清德氏が出馬に踏み切ったワケ

 頼清德氏の立候補表明の伏線には、16日に投開票された立法委員(国会議員)選挙の結果があった。4つの欠員を争う補欠選挙で、党勢が弱体化する民進党の全敗が危ぶまれるなか、接戦の末にかろうじて2議席を確保し、来年1月以降の総統選・立法委員選に向け、首の皮一枚がつながった形になった。

 立法委員の補選は、新北市、台南市、彰化県、金門県にある4つの議席を争ったもので、新北市、台南市は民進党の候補が勝利し、彰化県、金門県は国民党と国民党系の候補がそれぞれ勝利した。新北市、台南市の選挙区は、民進党が圧倒的に強い「グリーンの中のグリーン(グリーンは民進党のイメージカラー)」と呼ばれるところで、民進党の選挙としては過去最悪レベルだった2008年の立法委員選挙でも落とさなかった全国17の選挙区のうちの2つだ。

 ここで敗北すれば、民進党の希望は完全に打ち砕かれるほどのダメージになることが予想されるため、全党の力を挙げて2つの選挙区の勝利を狙った。特に注目を集めたのは賴清德氏の側近の一人である郭国文・元労働次官が出馬していた台南市の第二選挙区だった。対立候補の国民党候補が、先日の統一地方選で「韓流」旋風を巻き起こして高雄市長に当選した韓国瑜氏の勢いを借りて「対中関係改善による農漁業振興」をアピールし、民進党の分裂もあって一時は10%ほどの支持率の差をつけられる局面もあった。

 しかし、市長を2期務めたお膝元・台南市での敗北は許されない賴清德氏は連日、郭国文氏と一緒に朝から街頭に立って選挙運動に積極的に参加。「彼自身の選挙でもこれほど熱心に運動しているのを見たことがない」と言われるほどの力の入れようを見せ、劣勢からの逆転につなげることになった。

 そのため、賴清德氏が今回、総統選挙に立候補する目は残ったのである。一方で、党内の多数派の声は、次期総統選は「蔡英文総統・賴清德副総統」の「最強コンビ」で戦うべきだという意見も少なくなく、賴清德氏があえて党内の反対の声を押し切って名乗りを上げた背景には、前回の統一地方選で大敗を喫した民進党を救うには、低迷する蔡英文総統に任せておくわけにはいかず、自分が立候補するべきだという決意があったと見られる。

 また、現在年齢が59歳と決して若くない頼清德氏にとって、今回の機会を逃せば次期選挙では台頭してきている次世代に追い越されかねないという危機感もあったと見られる。

 これまでの各種世論調査では、民進党の党内選挙で蔡英文氏と頼清德氏の争いとなった場合、ほぼダブルスコアで頼清德氏が蔡英文氏を上回るという結果が出ているケースが多い。独立派は就任以来、中国に融和的だった蔡英文氏を嫌っており、頼清德氏を支持するだろう。しかしながら、過去に台湾の総統の現職が再選のために出馬できなかったケースは一度もない。そして、陳水扁氏も馬英九氏も、再選の選挙では対立候補を抑えて当選を果たしている。そのなかで、党内主流派には蔡英文氏の再任を推す声が支配的で、過去の世論調査の通りの民意が党による世論調査で現れるかどうかは未知数である。


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