Washington Files

2019年3月25日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。近著に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

パキスタンが核開発援助

 問題はそのイランだ。

 イランは去る2015年7月、米英仏独の欧米4カ国と中露を加えた6カ国との最終協議で、イランの核開発抑止をめざす最終取り決めいわゆる「イラン核合意」を受け入れたばかりだった。ところが、皮肉にもトランプ大統領は2018年5月、オバマ前大統領がとりまとめた同合意からの離脱を発表、このままではかえってイランにフリーハンドを与え、核開発に踏み切らせる口実を与えかねない状況になりつつある。

 今のところイランは、トランプ政権が「イラン核合意」無効宣言をした後も、他の加盟5カ国が合意を順守し続けているため、今後の対応については様子見の状態だが、米政府の対イラン経済制裁が長期化し、国内経済への打撃が深刻化した場合、合意自体の見直しを迫られる事態もありうる。

 この点に関連し、イランのモハメド・ザリフ外相は、米下院報告書要約版が公表された翌日の先月20日、ツイッターを通じ「イラン核合意を破棄する一方でサウジに対し核技術を提供しようとしていることは偽善以外の何物でもない。反体制ジャーナリスト、ジャマル・カショギ氏殺害に関与したサウジ政府に今また原発技術を供与しようとするアメリカは今や、人権問題にも核拡散問題にも無関心であることを世界に知らしめるようなものだ」と激しくトランプ政権を非難した。

 米下院調査委員会がサウジへの核技術供与にとくに神経をとがらせる背景には、サウジはかつて、同じイスラム教スンニ派が支配するパキスタンに資金援助を行い、結果的に“最初のスンニ核爆弾”と揶揄されたパキスタンの核開発をおぜん立てしたことがある。

 両国はパキスタン建国の1947年以来、政治、安全保障、通商、文化交流、宗教に至るまで幅広い緊密な協力関係を維持してきており、パキスタン政府は対サウジ関係を「アラブ世界における最強、最重要の関係」として重視してきた。

 こうしたことから、ニューヨーク・タイムズ紙も「パキスタンは隣国インドに対抗できる核保有国になれたことについて、サウジに特別の恩義を感じていることは明らかであり、サウジがその気にさえなれば、パキスタンが核開発援助をすることは否定できない」と報じている。

 また、パキスタンは2002年時点で、北朝鮮に対し、核爆弾技術を供与したことが、米情報機関によって確認されている。そしてその北朝鮮は近年、とくにサウジとの関係強化に乗り出してきており、最悪の場合、外貨稼ぎのために、すでに開発に成功した核兵器技術を今度はサウジに売却するというシナリオも考えられる。

 しかし、最大の問題は、こうした中東を舞台にした多くの安全保障上の将来的不安要因があるにもかかわらず、トランプ米政権が、イラン核合意の廃棄を決定する一方、他方でライバル関係にあるサウジに対し、核開発転用の危険がある原発技術供与に乗り出そうとしている点だ。戦略的視点を全く欠いた近視眼的な外交というほかない。

  
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