2024年11月22日(金)

使えない上司・使えない部下

2019年4月13日

自己理解ができている人は定着する傾向があります

北沢健さん

 採用試験で面接官をするサポートスタッフは、障がい者本人や同席する支援機関の支援者にこちらが雇い入れた後に配慮する点を必ず聞くようにしています。たとえば、「私たちがどういうところに注意すると、パフォーマンスを引き出すことができますか?」と聞きます。この時、ご本人が「病状が落ち着いているので、支援はいりません」や、支援者が「今の施設で問題がないので、特に支援は不要です」とお答えされる場合は採用をしないかもしれません。

 障害に向き合うことができているか、自己理解や自己受容がきちんとできているか…。これらが、大切なのです。たとえば、精神障害の方が「今は体調がいいです。問題はありません」とお答えされたとします。確かに、面接の時点では体調はよいのかもしれませんが、過去には悪い時があったわけですね。採用された場合は、長年勤めていただくことになるのかもしれません。その場合、どういうストレスに弱いのか。どういう状態になったら、鬱(うつ)の状態になるのか。このあたりをご本人や支援者が分析できているかどうかで、大きく変わってくるんですね。そこを私たちは面接で確認したいのです。

 支援機関では、個々の障がい者が過去の経験を振り返るトレーニングがあります。この訓練を通じて、自分がこういうストレスに弱かったとか、体調が悪くなった時にどのようにすればよかったのか…。これらをしっかりと振り返り、自己理解ができている人は当社に勤務した後、定着する傾向があります。

 最近、支援機関でこのようなトレーニングを十分にはしていないケースが増えているようです。福祉ビジネス的なことだけをする施設もあると聞きます。たとえば、面接の仕方やビジネスマナー、パソコンの基礎知識などを教えるのですが、病気の振り返りをあまりしていないようです。本来は障害に対して向き合い、どうして症状が悪くなったのだろうと振り返ることが必要だと私は考えています。その対面力を兼ね備えていることが働くうえで大切なのです。

 支援機関は、個々の障がい者の記録をデータベースとして保管しています。たとえば、「あいさつはできないが、こういう業務ならば適切にできる」などです。当社に限らず、ご本人や支援者は、採用試験でそのような特性を面接官にお伝えしたほうがよいでしょうね。そして、精神的なパニックが起こる原因はこれです、などと伝えたほうが面接官たちも判断しやすいと思います。

 今、AI(人工知能)やRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)などと言われています。単純入力作業などが減っていく時代なのだろうと思います。当社の障がい者の社員は、単純入力作業や反復業務などをしているケースが多いのです。そのことを踏まえ、たとえば、AIで処理する前段階での基礎データを作る仕事や人の手でしかないできない仕事を見つけるようにしています。たとえば、ホテルでのナプキンや鉄板焼きのレストランの紙エプロンなどをきれいに折るのは、実は手先の器用な障がい者の得意な仕事なのです。

 私たちの会社は、障がい者が多数いるこの職場を特例子会社にする考えはありません。あくまで、社内の1つの部署として位置付けています。今後は、全国のホテルなどでも障がい者の雇用を進めていくことができるようにしていきたいですね。

  
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