突貫工事の人事
矢野監督は当初、金本政権下で二軍監督からヘッドコーチへ就任する予定だったものの予想もしていなかった一軍指揮官を急遽任されるハメになったのである。この無茶苦茶な内部昇格のオファーを当初執拗に固辞していたのも無理はあるまい。
一度は金本体制の続投で決まっていたコーチ人事も引っくり返し、ほぼ突貫工事で新首脳陣の面々を集め直さなければならなかったのもかなりのネックとなったはずであろう。
最終的に根負けする形で指揮官就任のオファーを受諾した矢野監督の下には言い方は悪いが、どうしても寄せ集めの感が拭えないようなスタッフばかりが集まるハメになってしまった。ただ、この組閣は限られた時間しかなかったのだから致し方ない。そういう意味では同情の余地もある。
その矢野監督も、そして一蓮托生の決意をしているはずのコーチ陣たちも最初から噛み合わずに火花が飛び散る歯車を何とか一緒になって懸命に回そうとしている姿はとても痛々しく見える。いつまで経っても花開かない若虎の主力たちも情けないが、ギクシャクしたムードが漂う矢野体制の下では笛吹けど踊らずなのも残念ながら納得してしまう。
だが今季も宿敵・巨人からカモにされるなど虎党を心底がっかりさせるような戦いを繰り返している責任は現場よりも、どちらかと言えば球団フロントと電鉄本社にある。
2015年オフ、球団側は監督就任オファーに難色を示していた当時の金本氏を再三に渡って説得して三顧の礼で迎えた。それにもかかわらず最後はあっさりと契約途中で見切りをつけ、同じように躊躇していた矢野監督を後任に据えた。
しかも今回の矢野監督抜擢は3年半前の金本体制のように満を持してという流れではなく、その場しのぎの急転人事だったのだから不安は尽きない。今季終了後、あるいは来季あたりに何だか矢野監督が金本前監督のようにテレビカメラの撮影NGで立ったままの〝辞任囲み取材〟をさせられてしまうのではないかと心配してしまう。
もしかすると球団フロント、電鉄本社は矢野阪神が優勝しなくても別に問題ないと考えているのではないだろうか。いや、むしろ優勝しないほうが経営的にはいいと考えているのではないか――。