2024年12月5日(木)

矢島里佳の「暮らしを豊かにする道具」

2019年4月26日

急須に求められる職人の高い技術力

 急須は焼き物の中でも、非常に難易度の高い製品である。その理由はパーツの多さと、パーツ一つひとつの精度が急須の機能性に直結してくるからである。

 蓋、取っ手、胴体、茶こし、そして最も重要な注ぎ口の、5つのパーツから構成されている。一つずつろくろで挽いていき、くっつけて一つの急須が出来上がるのだ。

 萬古焼の土は、焼くと2割近く縮むので、この収縮率も計算して作らなければならず、毎回少しずつ土の性質も変わるので、職人さんの技術が試される。だからこそ、職人さんたちは何十年もかけて技術を磨いていくのだ。

「蓋の穴」の正しい位置を知っていますか?

 そういえば、始めて萬古焼の取材をしたとき、茶こしにも感動したのを今でも覚えている。大学生の頃までは茶こしといえば、金属かプラスチックの茶こししか知らなかったのだが、萬古焼の急須には、最初から茶こしがくっついていたのである。急須と同じ紫泥の土でできた共土(ともつち)の茶こし。穴はすべて手で一つひとつ丁寧に開けられている。どこまでも手間を惜しまない萬古焼、まさかの急須の中にまでうっとり。

 ところで、急須の蓋に開いている空気穴の正しい位置をご存知だろうか。

 正解は、注ぎ口の直ぐ近く。ここから空気が入ることで、茶葉が急須の中で循環するそうだ。以外と知らない正しい蓋の位置。日本料理屋さんへ行っても、なかなか正しい位置に蓋を置いているお店に出会えない。ぜひこの機会に覚えておくと、ちょっぴりかっこいいのではないだろうか。

 世の中には様々な急須がある。

 自分自身が、どんな急須と共に暮らすと豊かさを感じるのだろうか。

 自分のそばに置く道具、今一度見直してみてはいかがだろうか。

連載:矢島里佳の「暮らしを豊かにする道具」

矢島里佳(株式会社和える 代表取締役)
1988年東京都生まれ。職人と伝統の魅力に惹かれ、19歳の頃から全国を回り始め、大学時代に日本の伝統文化・産業の情報発信の仕事を始める。「日本の伝統を次世代につなぎたい」という想いから、大学4年時である2011年3月、株式会社和えるを創業、慶應義塾大学法学部政治学科卒業。2012年3月、幼少期から職人の手仕事に触れられる環境を創出すべく、“0歳からの伝統ブランドaeru”を立ち上げ、日本全国の職人と共にオリジナル商品を生み出す。テレビ東京「ガイアの夜明け」にて特集される。日本の伝統や先人の智慧を、暮らしの中で活かしながら次世代につなぐために様々な事業を展開中。

  
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