西山隆行が読み解くアメリカ社会

2019年4月26日

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西山隆行 (にしやま・たかゆき)

成蹊大学法学部教授

東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了、博士(法学)。甲南大学法学部教授を経て現職。専門は比較政治・アメリカ政治。著書に『アメリカ型福祉国家と都市政治』(東京大学出版会)、『移民大国アメリカ』(筑摩書房)、『アメリカ政治』(三修社)、『アメリカ政治入門』(東京大学出版会)、5月に『アメリカ政治講義』(筑摩書房)が刊行予定。

サンダースの活動はトランプの再選に有利に働く?

 なお、サンダースの選挙戦略には他の候補とは異なるところがある。サンダースは先日、保守的傾向を示し、トランプを支持するフォックス・ニュース主催のタウンホールミーティングに出演してトランプ批判を繰り返し、トランプを「病的な嘘つき」と評した。サンダースはトランプを徹底的に攻撃することでトランプ支持者を離反させ、自らの支持基盤に組み込もうとしているのではないかと指摘する声もある(他の民主党リベラル派候補は、反トランプの立場をとる人々の動員を中心に位置付け、トランプ支持者の取り込みを考えていない可能性がある)。トランプとサンダースは怒りに基づいて人々を団結させようとする点で共通点がある。

 だが、このサンダースの戦略がうまく機能するかどうかはわからない。トランプを支持した白人労働者層は、成功した白人からは見下され、マイノリティからは積極的差別是正措置という名の逆差別を受け、家庭内では妻に見下されているという感情を持っている。そして、自分たちは、政府による福祉給付に依存する人々とは違うということにプライドを持っている。そのような彼らが、福祉の拡充や政府機能の拡大を主張するサンダースを支持するとは考えにくい。実際、共和党陣営の中には、サンダースの活動はトランプの再選に有利に働くと主張する人たちもいる。

 社会主義を標榜する人々やリベラル派が主張するような過激な立場は、あらかじめ勝敗が明白な選挙区が多い連邦議会選挙では有効な場合も多い。だが、民主党が大統領選挙で勝利するためには、保守的な郊外地域からの支持を獲得する必要もあることから、そのような極端な立場は民主党を困難な状況に追い込むとの懸念も強い。

バイデンの出馬を待望していた民主党穏健派

 このような状況を受けて、民主党穏健派の中には、リベラル派とは異なる立場を提唱しようとする人々が増えている。環境政策については、グリーン・ニューディールの議論を非現実的だとし、市場メカニズムを活用した方策を模索するようになっている。「すべての人にメディケアを」を究極の目的と位置付ける人の中にも、費用負担が大きくなりすぎるのを回避するため、現在の民間医療保険会社を活用してオバマケアを拡充するのが現実的だと主張する人もいる。そして、富裕層増税を主張する人々に対し、限界税率を増大させるのはアメリカ経済にとって好ましくないとの指摘もされている。富裕層増税よりも、現在の税制の抜け穴を防ぐことや、ミドルクラスに対する税控除を拡充することの方が必要だというのが穏健派の主張である。

 2018年の中間選挙で民主党が意外と票を伸ばすことができなかったのは、トランプ支持者の共感を得ることができなかったからではないかという声は強い。とりわけ、郊外地域の穏健な有権者の支持獲得が、2020年選挙に向けての最重要課題であるとされている。そのような主張をする人々の間でバイデン待望論が沸き起こっていたのである。

 バイデンは、今回の選挙は医療保険やグリーン・ニューディールをめぐる選挙では無いと指摘している。また、今日アメリカが直面する問題の原因が500人のビリオネアにあるとは考えないと述べ、富裕層批判はアメリカ社会の分断を招くので好ましくないと主張する。そして、アメリカの財政赤字を解消することを目指し、経済政策一般に注力するのが重要だと指摘している。医療保険についても民間医療保険会社を活用することの重要性を強調している。

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