2024年12月22日(日)

西山隆行が読み解くアメリカ社会

2019年2月28日

 冷戦期、アメリカは社会主義・共産主義と対峙する資本主義圏の盟主としての地位を確立していた。現在、そのアメリカで、社会主義という言葉に大きな注目が集まっている。

 ドナルド・トランプ大統領は、2月に行った一般教書演説で、アメリカを社会主義の国にしてはならない、そして、アメリカは決して社会主義の国になる事はないと強調した。冷戦期の国際情勢や社会主義国の状況を知るものからすれば、何を当然のことを言っているのだろうという気がしなくもない。だが、今日のアメリカでは、社会主義という言葉に対するとらえ方が以前とは大きく変化している。1940年代、アメリカで社会主義と言えば、様々な企業等を国家が管理する考え方だとされた。しかし、今日では、社会主義という言葉は、政府による管理や統制よりも、平等と結びつけて理解されるようになっている。

一般教書演説で「アメリカを社会主義の国にしてはならない」と強調したトランプ大統領
(写真:AP/アフロ)

「社会主義」に好意的なイメージを抱かせた
バーニー・サンダース

 アメリカで近年、社会主義と言う言葉に好意的なイメージを抱かせるきっかけを作ったのは、2016年大統領選挙で民主党候補となることを目指していたバーニー・サンダースであろう。従来型権力の象徴的存在であったヒラリー・クリントンに対抗し、革命を訴える自称民主社会主義者であるサンダースの主張は、とりわけ若者の心をとらえた。そして、2018年の中間選挙では、サンダースが連邦議会上院で三選を達成したのみならず、ニューヨーク州でアレクサンドリア・オカシオ・コルテス、ミシガン州でラシダ・タリーブら社会主義者を称する人物が当選している。

 彼らの当選を可能にした社会的背景としては、近年のアメリカにみられる大きな経済格差がある。アメリカの富の大半が上位1%の富裕層に独占されていると批判し、我々は99%だとのスローガンを掲げて富の偏在を批判したウォール街選挙運動と連続性が見いだせる。

 他方、社会主義という言葉にソフトな印象を与えたきっかけは、ひょっとするとティーパーティ運動かもしれない。ウォール街選挙運動とは対照的に、徹底的な小さな政府の実現を主張してバラク・オバマ政権期に登場したティーパーティ運動の活動家は、オバマ政権による医療保障改革を社会主義的医療として、そしてオバマをレーニン(マルクス主義的社会主義者)やヒトラー(国家社会主義者)に並ぶ社会主義者(民主主義的社会主義者)であるとして、強く批判した。

 だが、オバマが成立を目指していた国民皆医療保険は、日本やカナダでも実現しており、決して過激な制度ではない。このような主張を受けて、一部のアメリカ人、とりわけ、冷戦を経験していない若い人たちの間に、社会主義とは必ずしも過激な考え方ではないという印象を作り出した可能性があるように思われる。

 この点を考える上で興味深いのは、共和党支持者と、民主党内で社会主義を提唱する人たちの間で、社会主義と言って思い浮かべるものが大きく異なっていることである。トランプに代表される共和党の政治家が近年、社会主義を想起させるものとして取り上げるのは、ベネズエラの事例である。これに対し、サンダースが社会主義の例として出すのは、北欧のスウェーデンやノルウェーである。これらの国々は、社会主義ではなく社会民主主義の国だというべきであろう。これは民主党を支持する若者の間に他国や歴史に対する知識が欠如していることの表れであるが、彼らが提唱している社会主義の概念は世界標準でいえばかなり「穏健」なものなのである。


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