西山隆行が読み解くアメリカ社会

2019年2月28日

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西山隆行 (にしやま・たかゆき)

成蹊大学法学部教授

東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了、博士(法学)。甲南大学法学部教授を経て現職。専門は比較政治・アメリカ政治。著書に『アメリカ型福祉国家と都市政治』(東京大学出版会)、『移民大国アメリカ』(筑摩書房)、『アメリカ政治』(三修社)、『アメリカ政治入門』(東京大学出版会)、5月に『アメリカ政治講義』(筑摩書房)が刊行予定。

右でも左でもない「穏健派」の支持を集めるというシュルツ

 2020年大統領選挙をめぐって、スターバックスの元CEOであるハワード・シュルツの動向にも注目が集まっている。シュルツは、2020年の民主党の大統領候補と目されている人物たちを、過激な立場をとる者として強く批判している。例えば、富裕層に対する増税を強く提唱している、マサチューセッツ州選出の上院議員であるエリザベス・ウォーレンの主張について、ニュースの良いヘッドラインになるかもしれないが、実現可能性がなく馬鹿げていると一蹴した。なお、大統領選挙に出馬する年齢には達していないが、同様に富裕層増税を提唱しているオカシオ・コルテスについては、勉強不足であり、非アメリカ的な人物だと手厳しく批判している。

 シュルツは、カリフォルニア州選出の上院議員、カーマラ・ハリスについても手厳しい。ハリスは、「全ての人にメディケアを(メディケア・フォー・オール)」と呼ばれる立場に賛同している。アメリカでは国民皆医療保険が公的に制度化されておらず、政府が提供する医療保険は、退役軍人や公務員を対象とするものを除けば、児童向けのもの(CHIP)、貧困者向けのもの(メディケイド)、高齢者や一部の障碍者向けのもの(メディケア)しか存在しない。それ以外で医療保険を必要とする人々は民間医療保険に加入しているのであり、その比率は非常に高い。

 このような状況を踏まえて、メディケアの対象を拡大することで、政府が提供する医療保険制度を利用したいと考える人は利用できるようにしようというのが「全ての人にメディケアを」の基本的立場である。だが、ハリスは先日、比較的穏健なそのような立場を乗り越えて、いずれ民間医療保険を全て廃止し、医療保険をメディケアに一元化することも将来的な目標とするべきだと発言した。シュルツはこの発言をとりわけ強く批判している。シュルツによれば、そのような考え方はアメリカ的でなく、仮にそのようなことが認められれば、他の産業、例えばコーヒー産業等についても、国営化することになってしまうというのである。

 このような状況を受け、シュルツは、もし民主党が穏健な立場に立つ柔軟な人物を大統領候補に据えないようならば、自ら第三党候補として立候補すると宣言している。彼が想定している穏健な候補とは、オバマ政権の副大統領であるジョー・バイデンや、元ニューヨーク市長のマイケル・ブルームバーグなどである。彼は、民主党が左派的な候補を選出すれば、その左派的な立場にも、右派的なトランプにも賛同したくない、穏健な有権者の支持を集めて勝利できると主張している。

 他方、シュルツは、自らが立候補を検討する最大の理由はトランプ大統領の再選を阻止することにあると明言している。民主党の候補が最終的に決定するのは2020年の7月から9月であることを考えると、それまでの間、第三党候補としての立場を維持するには莫大な費用がかかる。だが、たとえその費用が無駄になったとしても、民主党が穏健派候補擁立するならばトランプの再選を阻止することができるため、自らの立候補を取り下げるとしているのである。

 2010年の連邦議会選挙前後から、ティーパーティ派が共和党を右傾化させ、党の在り方を大きく変質させたと指摘された。それと同様の現象が現在、民主党の側にも起こっているのであろうか。2020年大統領選挙に向けて、民主党の動向に注目する必要があるだろう。

*後編:「発言力増す米民主党左派、過激な主張の実現性は低い?」

  
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