2024年4月20日(土)

オトナの教養 週末の一冊

2019年6月14日

 川崎市多摩区で起きた殺傷事件の容疑者が引きこもりであったことから、引きこもりがまるで犯罪予備軍であるかのような報道があった。これに対し当事者らでつくる団体は偏見を助長すると声明を発表した。

 今年3月に内閣府が公表した推計値では、40歳から64歳の中高年の引きこもりが全国に61.3万人いるという。キャリアカウンセラーとして引きこもりや就職困難者の支援を行ってきた小島貴子・東洋大学理工学部生体医工学科准教授と、引きこもり問題の第一人者として臨床に携わる精神科医の斎藤環氏が対談した『子育てが終わらない』(青土社)。今回、中高年の引きこもり状態の背景に何があるのかなどについて小島氏に話を聞いた。

(Tzido / iStock / Getty Images Plus)

――今年3月に内閣府が中高年の引きこもりが約61万人と発表し衝撃を持って受け止められました。引きこもりや就職困難者の支援を続けてきた小島先生にとっても驚きでしたか?

小島:内閣府の調査では、約61万人と公表されましたが、私たちは100万人近い中高年の引きこもりがいると推定しているので特に驚きはありませんでした。

 斉藤先生と出会ったのは10年以上前に開かれたパネルディスカッションでした。当時、すでに引きこもりの子どもが40代で、親が70代の「4070問題」があったので、より高齢化し現在のように「5080問題」になるのはわかっていました。

――一口に引きこもりの子どもがいる家庭と言っても、さまざまな状況があるのは承知していますが、なかでも多く見られるのはどのような家庭状況でしょうか?

小島:親にある程度の経済力がないと引きこもることはできませんから、一定以上の経済力のある世帯に多いですね。たとえば以前、日本の大手企業で、社員に妻や20歳以下の子ども、高齢の両親などを除き扶養家族がどれくらいいるか調べてもらったことがあります。その結果、部長、課長クラス以上の世帯に引きこもりと思われる成人の扶養家族がいることがわかりました。

 また引きこもりの子どもがいる家庭では、夫婦関係が機能していないケースが目立ちます。引きこもりのカウンセリングでは、相談に訪れるお母さんの多くが「子育てに失敗した」「私が悪い」と自責の念にかられています。こうした家庭では男性が稼ぎ、女性が子どもを育てる役割を担っている場合が多いので、夫は妻に対し「お金は十分渡しているのに子どもの教育に失敗して、学校にも行かないし働きもしないじゃないか」と妻を責め立てる。もしくは、まったく口をきかず、無視をする。あるいは、学校が悪いと外に責任を押し付ける傾向があります。本来ならば、家庭で起きた問題は夫婦が協力して解決するべきですが、どちらかに責任の比重が重くのしかかり、夫婦関係が正常に機能していません。


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