ゴキブリホテルの責苦
部屋の広さは横2メートル半、縦3メートルほどと狭く、ベットと机がひとつある。トイレ・シャワー室もついている。エアコンもある。ほっとするのもつかの間、木机の上をゴキブリ数匹が我が物顔に動き回っているではないか!
南米のアマゾン在住時、即席ラーメンを作ったら、いつの間にか汁の中を夥しい蟻が入っていて、アリ盛りラーメンになったことを思い出した。
しかたない。超安ホテルなのだ。
ゴキブリを放置し、汗だくなのでバスルームに入り、洗面所の水を流す。あれれれ、今度は水が流れない。みるみる水が溜まっていく。試しにシャワールームのせんをひねる。生ぬるい水が出て来る。ところが、シャワーのせんをひると、部屋の電気が消え暗くなる。まか不思議。それにトイレットペーパーもバスタオルもない。もちろんWifiは部屋からは通じない。
観光客など来ないのだから、こうしてサービスは低水準にとどまり続けることになる。
現地仕様化は成功しすぎた
治安関係の人間とやっと連絡がとれて、なぜ空港で彼らと落ち合えなかったかが判明した。
インテリジェンス系の人間が2人空港に来ていたが、見知らぬ日本人を見つけることができなかったのだ。彼らは、大目玉を食らったようである。
すなわち、私は完全現地仕様化していた。
誰もが、あらゆることに先入観を持ち、類型外であると、見逃す、騙される。以前、軍事政権下のミャンマーに行くときにも、日本で土産を買ったら、私のことをミャンマー人だと思い、店舗の女将が小学生でも知る日本の歴史を長々と私に説明し始めたことがある。
「これは将軍といって、江戸時代というのがあって、云々……」
私は頬髭、顎髭を伸ばし、外に出るときは短パン、サンダル履き、アロファシャツ、手にはスーパーでもらうビニール袋、中に必要ならばカメラや財布を入れ、肩で風を切って歩く。場合によってはサングラスをかける。コタバト市でも何度かタガログ語で話かけられる。これがもっとも安くつく安全策である。
けれどもこの街は夜歩く気になれない。ホテルの左右にあるのは雑貨屋の類はすべて夕方6時には閉まり、あっとう間に闇の帳が落ちて来る。路上を歩いてみると、不穏な風が吹き、ごみが舞い上がる。外に出ても行くところがない。唯一夜空いているのはマッサージパーラーのようだが、タクシーを飛ばしてまでいく気にはなれない。