2022年8月12日(金)

国際

2019年7月2日

»著者プロフィール
閉じる

川瀬剛志 (かわせ・つよし)

上智大学法学部教授

上智大学法学部教授。専門は国際経済法。慶應義塾大学法学部卒業、ジョージタウン大学法科大学院修士。経済産業研究所ファカルティ・フェローも務める。著書に『WTO紛争解決手続における履行制度』『地球温暖化対策と国際貿易-排出量取引と国境調整措置をめぐる経済学・法学的分析-』(ともに共編著)。

 安倍首相は意見の共通点を重視、それでもその裏には

 他方、安倍首相は議長会見で、意見の違いよりも共通点・一致点を見出すことの重要性を強調した。例えば、首脳声明が謳う自由・公平・無差別な貿易及び投資環境、開放的な市場、公平な競争条件は、いずれもWTO協定や既存の全ての地域経済協定の基礎をなす原則である。これらに表立って反対する国はないだろう。

 しかし昨今の国際通商体制をめぐる問題は、自由なり公平なりといった要素の具体的内容やレベル感をめぐる各国間の意見の相違に起因しており、またこうした要素間のバランスの問題でもある。目下の米中紛争は正にこのことを表している。すなわち、「世界の工場」として競争力を謳歌してきた中国にとっては「自由」こそが重要であり、対して中国をはじめ新興経済国の国家資本主義に支えられる不当な競争優位や貿易赤字に苦しむ米国にとっては「公平」の存在感が大きくなる。したがって、こうした一般原則の内実は同床異夢であることは否定できない。

 また、貿易・デジタル閣僚声明はWTO改革の具体的要素に踏み込んで言及しているが、G20前のここしばらくの動向を踏まえると、これらは既にある程度合意が得られたラインを書き込むにとどまっていることがわかる。国際経済システムの大きな方向性を打ち出す政治的フォーラムとしてのG20の役割を考えれば仕方のないところだろうが、声明は現状のストックテーキングに終始している印象を受ける。

 もちろん安倍首相も議長会見で説明するように様々な課題について一気に解決策を見いだすことは難しいことは承知した上でこうした融和的なアプローチを採用しており、その点につき揚げ足取りをするつもりはない。そもそも上記のようなフォーラムとしての性格ゆえ、G20に決定的な問題解決の役割は期待できないだろう。ただ他方で、一致点に着目することで成功裏に取りまとめられた首脳声明の裏で残された課題が少なくないことを直視しなければ、現下の国際通商システムの課題解決には繋がらないことも確かだ。以下、そのような視点から個別論点について今回の成果を検討したい。

関連記事

新着記事

»もっと見る