2024年12月5日(木)

Wedge REPORT

2019年8月25日

 一度に大量の外国人観光客を呼び込める手段としてこの数年、急激に伸びてきたクルーズ船ビジネスが伸び悩み、踊り場を迎えている。クルーズ船に乗る客の7~8割はリピーターのため、同じ観光メニューでは満足できない。リピーターに新たな感動を与える寄港地でのきめ細かいアトラクションと、シニア層が多かった客層を若い世代にまで広げられるかどうかが、日本にクルーズが定着できるかのカギを握っている。一方で、家電製品が中心の通販大手のジャパネットグループがこのビジネスに新規参入、大型船を使ったチャーターにより旅行業界に新風を巻き起こしている。

ベリッシマ

減少した旅客数

 クルーズ船を利用して来日する外国人旅客数、寄港回数はこの数年大幅に伸びていたが、2018年は旅客数が前年比3.1%減の245万1000人となり、クルーズ船の寄港回数は一桁の伸びの6.0%増の2930回にとどまった。旅客数が減ったのは中国発の旅客数が203万人に落ち込んだのが大きな要因で、中国の旅客数増を当て込んで各船会社が配船を増やし供給過剰になった。

 国土交通省はクルーズ船旅客数を20年には500万人にする目標を掲げているが、いまの伸びでは到達するのは困難で、クルーズビジネスの再構築が求められている。寄港地別では博多港が279回でトップ、次いで那覇港の243回、長崎港の220回、横浜港168回と続く。

相次ぐ新しい岸壁

 クルーズ船が寄港する港ではこの数年、20万トンクラスの超大型船も受け入れられるようにと、専用のふ頭や岸壁を新設する動きが相次いでいる。寄港回数3年連続トップの博多港は、中国や台湾からのクルーズ船の玄関口として港の整備に力を入れている。昨年9月に世界最大級の22万トンクラスの大型クルーズ船が接岸できるバースが完成した。これにより中央ふ頭でクルーズ船が2隻同時接岸できる。さらに寄港数の増加に対応して、数年かけて港を拡張する計画もあり、将来的にはオーストラリアのシドニー港を目指している。

 横浜港はこれまで大型のクルーズ船がベイブリッジをくぐれないことから寄港ができない船が増えていたが、4月には大黒ふ頭はブリッジの外側にできたため大型船も着岸できるようになった。これにより、今年は大黒ふ頭を利用する超大型船は昨年の2倍となる22回が見込まれている。

 今年のゴールデンウィークには横浜港発着のクルーズ船4隻の同時接岸が実現した。さらに将来的には、大さん橋、大黒ふ頭、新港ふ頭、山下ふ頭、本牧ふ頭の5つのふ頭で同時に7隻の接岸が可能になる。新港ふ頭には今年の秋に新しく客船ターミナルが完成して、ターミナルの1、2階にはCIQ(税関、出入国管理、検疫)がスムーズにできるようになるなど、同港はワールドクラスのクルーズ港に向けた取り組みを積極的に進めている。

 同様に東京港も高さ52メートルのレインボーブリッジを通過できない大型船が増えたため、ブリッジの手前に世界最大級のクルーズ船が着岸できる東京国際クルーズ船ターミナルを建設中で、東京五輪開催に合わせて20年7月14日にオープンする。

 このほか青森港は4月にクルーズ船専用ターミナルが完成、今年は過去最大の27回の寄港を予定している。また昨年30回寄港した熊本県八代港は、来年4月に専用バースが完成する。

増えるチャーター

 H.I.S.グループのクルーズプラネットの小林敦社長は、現状について「日本のクルーズ人口は増えてはいるが伸び率が鈍く、人口比では0.25%でしかなく、米国の3%、1200万人とは比較にならないほど少ない。クルーズがブームにまでならない理由は、価格が高いイメージがあることが大きい。働き方改革が叫ばれたが、長期間の休みがなかなか取れず、認知度が広がらない」と指摘する。

サン・プリンセス内部

 そうした中で同社は東京五輪を視野に入れて、20年はリスクを取ってクルーズ船を一隻丸ごと貸切るチャーターを増やす計画だという。具体的にはオリンピックが閉幕した翌日の8月10日から16日までの期間、2000人が乗れるクルーズ船「サン・プリンセス」をチャーターして、お盆休みを利用できる横浜―釜山―徳島―新宮―横浜を7日間で回るツアーを売り出す。徳島では阿波踊りを桟敷席から鑑賞、新宮では世界遺産に指定された熊野古道まで足を延ばすこともでき、シニアだけでなく子供を含む家族連れの参加を期待している。チャーターによるツアーは、ラグジュアリーから一般客室まで大量に販売できるため営業はしやすい反面、外れると大きな損失になるリスクがある。


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