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VALUE MAKER

2019年12月29日

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磯山友幸 (いそやま・ともゆき)

ジャーナリスト

千葉商科大学教授(4月から)。1987年日本経済新聞社に入社。フランクフルト支局長、「日経ビジネス」副編集長などを務め、11年に独立。著書に『2022年、働き方はこうなる』(PHPビジネス新書)など。

【ソニー・太陽】ソニーの創業者・井深大さんと、障がい者が自立を目指す施設として創られた「太陽の家」との共同出資で1978年に設立された。写真は、社長の盛田陽一さん(左)と製造部の宮本晶さん

 放送業界で「漫才マイク」としてよく知られているC−38というマイクがある。銘品とされ、音作りの世界でスタンダードになっている。注文数は少ないが、現場に愛され、着実に需要はあるため、生産を止めるわけにはいかない。

 ソニー・太陽の熟練工が手作業で組み立て、音質をチェックし出荷する。その技を伝承していくことも重要だ。ソニー・太陽の工場を歩いていると、ソニーという会社の原点とも言える「こだわりのモノづくり」という伝統を、色濃く残していることに気づかされる。

 「マニファクチャリングというよりも、一人ひとりの職人が技で作り込んでいくクラフトマンシップの会社です」と盛田陽一社長は言う。そして、「ジャストイヤーは一つひとつ違うことがウリなので、機械ではなく、人間がまだ活躍でき、大きな付加価値を付けられる」と盛田さん。まさにソニー・太陽の得意技である。

根気のいる作業

 製造部の宮本晶(あきら)さんは、製造方法を確立する大役を任せられた。ソニー・太陽に28年勤めるベテラン・マイスターだ。

 透明な樹脂でイヤホン本体を作るが、「はじめは気泡が入ったり、割れてしまうなど失敗もしました」と宮本さん。「不思議なのですが、一度失敗すると何度やってもうまくいかないなど、イライラが募ることもありました」と苦笑する。実際、「もうやってられない」と挫折して、担当を代わった社員もいる。それだけ根気のいる作業なのだ。ソニー・太陽の社員の中でも、ジャストイヤーを手掛けているのはごく一部の熟練工で全員が障がいのある社員である。

顕微鏡を使って行われる内側のクリーニング作業

 一つひとつ手作業のため、量産はきかない。ほぼフル生産の状態だ。声優の南條愛乃さんとコラボした限定モデルは、あっという間に予定数を完売した。南條さんの聴いている同じ音質で音楽を楽しみたいというファンの人気を集めた。

 今後は日本の音響技術に関心の高いアジアの国々でもヒットしそうな予感だ。ジャストイヤーの存在がジワジワと口コミで広がっている。特に香港などで人気が高まっているという。

 まだイベントなどで出品した際の販売が中心で、耳型を採れるディーラー網の整備ができていないため、本格的に供給できていない。所得水準の向上とともに良いものには出費を惜しまないアジアの人たちが増えている。まだまだ販売が増える可能性は高そうだ。

 障がいを乗り越えて健常者以上の成果をあげるようになったソニー・太陽のマイスターたち。高い付加価値を生み出し、日本にモノづくりを残すことに大きく貢献しているのは間違いない。

  
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◆Wedge2019年4月号より

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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