2024年11月24日(日)

Wedge REPORT

2019年8月16日

新たな投資に短期間での
リターンは求めない

 サービスに個性を出すために私が行ってきたのが、宿泊サービスを担う現場スタッフからも「こだわり」を集め、それを実践することだ。例えば星のやでは、「星野リゾートトマム」(北海道占冠村)にある雲海観賞用の施設「雲海テラス」など、現場スタッフの「こだわり」から生まれたサービスが多く存在する。地元に根付き、日々接客している現場スタッフは、多くの変革のヒントを持っている。それは大切な会社の財産だ。経営者は、そうした個性的な宿泊施設へと生まれ変わるヒントを現場スタッフから出してもらえるように、環境を整えなければならない。

 環境づくりのために私が行ってきたのが、フラットな組織文化の醸成と、各宿泊施設に自律分散的に意思決定権を持たせることだ。

 星のやでは、私も含めて社員の関係がなるべくフラットになるように、役割は「総支配人」「ユニットディレクター」「プレイヤー」の三つしか設けていない。「ボトム」「ミドル」という言葉すら用いない。そして、それらの役割は立候補によって決まる。

 もっと責任を持ち給料をもらいたい人は立候補すればいい。しかし、それが上司、部下の関係性をもたらすことはない。どの役割の人でも、発言したいことがあるときには発言しやすい環境があることが大切だ。

 また、星のやでは個々の宿泊施設で行う取り組みやサービス内容について、スタッフが私に相談することはあっても、決裁をあおぐことはほとんどない。あくまで各宿泊施設が権限をもって自律して運営することで、トライアンドエラーを繰り返してもらうことが重要だ。

 経営者はこうした新たな投資に短期間でのリターンを求めがちだ。しかし、現場のこだわりにはじわじわと成果があがるものもあり、焦ってはいけない。大切なのは全社員がビジョンに基づいて行動できるかどうかだ。そのため、私は「リゾート運営の達人」というビジョンを研修の場でも普段の業務でも社員に口酸っぱく言って共有してきた。ビジョンに沿って社員から出たアイデアは否定せず、どんどん採用することで、組織を活性化できる。(談)

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■ムダを取り戻す経営 データ偏重が摘んだ「創造の芽」
Part 1  失われた20年の失敗の本質
         今こそ共感や直観による経営を取り戻せ――野中郁次郎(一橋大学名誉教授)
COLUMN  組織内の多様な「物語」が新しい価値を生み出す――やまだようこ(京都大学名誉教授)
Part 2      低成長を脱する処方箋
         潤沢な「貯金」を使い未来への「種まき」を――中島厚志(経済産業研究所理事長)
Part 3      逆境を乗り越えた経営者の格言
          ・「ビジネスモデルの変革なくして企業に未来はない」――坂根正弘(コマツ顧問)
          ・『そろばん』より『ロマン』 大事なのは『志』を持つこと」――金井誠太(マツダ相談役)
          ・「階層を壊して語り合う 自由闊達な風土が付加価値を生む」――小池利和(ブラザー工業会長)
Part 4      株主資本主義がもたらす弊害
             「株主偏重のガバナンスは企業の成長を阻害する」――松本正義(関西経済連合会会長)
Part 5  米国型経営の正しい使い方
          ・「経営者と現場は『こだわり』を持て」――星野佳路(星野リゾート代表)
          ・「消費者価値を創る本当のマーケティング」――森岡 毅(刀・代表取締役CEO)

  
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◆Wedge2019年8月号より

 

 

 

 

 
 

 

 
 

 

 

 
 
 
 


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