2024年11月22日(金)

ヒットメーカーの舞台裏

2012年3月14日

 試飲での評価が定まり、自信のもてる最終的な合組が決まるまで1年が経過し、試したブレンドは約50種類に及んだ。製造部門も今回のように抹茶の配合比率が高い製品は未経験だったので、安定品質を確保できる量産化へのトライアル生産を重ねていった。

「お茶の商品名は漢字で」という
こだわりを思い切って捨てた

 このお茶をヒットに導いたのはネーミングの効果も大きい。お茶らしく漢字を使った名称を中心に候補は約100件あったという。しかし、漢字では「コーヒーを飲むようにお茶を飲むというイメージを表現できる言葉」が、なかなか見つからなかった。そんななか、漢字へのこだわりを捨てた新関がこれだと、見出したのが「グリーンエスプレッソ」だった。

 濃厚な味、本格的、男性的……と、この商品に託す「想いが伝わりやすく、響きもよい」と、直感した。「グリーン」を冠することで、お茶だというメッセージも含まれる。もっとも、最近は抹茶ラテなど、お茶を洋風にアレンジした商品も少なくないので若干の懸念はあったという。

 そこは、ボトルに伊右衛門のロゴを目立つ位置に入れるなど、パッケージデザインによってカバーした。また、ボトルのキャップ上面には、「上下に5回振ってから開けてください」との書き込みも入れた。一定時間置いておくと、多く配合した抹茶が底に沈殿するからである。

 決してスマートな記述ではないものの、新関は「美味しく飲んでいただくために必要な情報」と割り切り、分かりやすく大書した。コーヒー飲料も開栓の前に、無意識のうちに缶を振る人が多いので、消費者には抵抗感なく受け止められているようだ。

 新関は「子どもから大人まで幅広く喜びを提供できる企業」を志望し、サントリーに入社した。宣伝部でワインを担当した後、4年余り前に今の職場に配属となり、ずっと伊右衛門を担当してきた。09年には瓶入りで紙袋付きの「秋の茶会」というプレミアム商品を企画した実績がある。

 これからも、「従来の発想や枠にとらわれずに、お茶を飲んでいただくシーンを提案して、多くの方に喜んでいただきたい」と言う。入社時に自ら描いた企業人としての目標を、一歩一歩踏み締めている。(敬称略)


■メイキング オブ ヒットメーカー  新関祥子(にいぜき・さちこ)さん
サントリー食品インターナショナル 食品事業部

新関祥子さん (写真:井上智幸)

1978年生まれ
山形県山形市に生まれる。小さいときは弟と公園で遊び、家族でスキーに出かけるなど、体をつかって遊ぶのが大好きだった。中学校では生徒会に所属し、運動会でのフォークダンスなどを企画した。各クラスで好きな曲にあわせたオリジナルのダンスを考え、全校生徒の前で披露し、投票によって学年ごとのダンスを決めた。高校は地元の山形県立山形東高校に進学し、ソフトテニス部に所属した。
1997年(19歳)
早稲田大学政治経済学部に入学。日本企業の国内外における人事制度を学ぶゼミに所属した。大学間でのディベート大会や、東南アジアの国々や日本国内で企業訪問を活発に行えることが魅力だった。国内の食品、自動車、精密機械などの企業に直接電話し、アポイントをとって人事制度をレクチャーしてもらった。小さい頃から人と触れ合うことが好きだったので、子どもから大人にまで親しまれる商品を扱う企業で商品開発をしたいと考えるようになった。就職氷河期の真っ只中であり、就職活動は難しかったが、身近な消費財を扱う会社を中心に就職試験を受けた。
2001年(23歳)
サントリー入社。宣伝事業部の宣伝企画部で5年半働いた後、現在の食品事業部に異動。今後もお茶というカテゴリーに捉われず、新しい商品を提案していきたいと考えている。

◆WEDGE2012年3月号より


 




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