この熱き人々

2019年11月25日

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吉永みち子 (よしながみちこ)

1950年、埼玉県生まれ。85年、『気がつけば騎手の女房』で大宅壮一ノンフィクション大賞を受賞。著書に『母と娘の40年戦争』(集英社文庫)、『怖いもの知らずの女たち』(山と溪谷社)、『試練は女のダイヤモンド』(ウェッジ)などがある。

 「会社と言っても机と電話と音響と酒があるだけ。社員に給料払えたことなかったし」

 ありえない社長と会社のもとに、それでも音楽が好きな人たちが集まってきて、アルバイトをして自分の生活と会社を支える。日高は世界中、日本中を回り、小さなライブ会場などでアンテナに引っかかる無名のアーティストを発掘していた。

 「日本の大手のレコード会社に売り込みに行くと、誰も知らないとか売れてないとかいう理由で9割は断られる。それ、おかしいだろ? だったら自分で売るしかない」

 

 誰も知らない尖ってキラキラした才能を見つける。売れたら後は勝手にやってというのが日高の流儀。

 フジロックでも、無名の歌手やバンドが出られる小さなステージがある。日高は会社に届くたくさんのデモテープをすべて聴いて、出演者を決めてきた。日本には日本のロックンロールがある。そこからメインステージのヘッドライナーが生まれるのが日高の夢だった。その夢を叶えてくれたアーティストは今やたくさんいる。

 常に新しいものを求め、面白いことに挑戦する。前年と同じならやる意味がない。だからフジロックも年々進化している。今年はLPレコードのジャケットで作った迷路や宝探しのような卵探しゲームも試みた。目指すのは自然の中の音楽の遊園地。だから遊びも遊び心もどんどん詰め込む。

 「フジロックは金、土、日でしょ。最初は金曜なんて誰も来ないって反対された。でも、入らないからやるんだよ。土日なら大丈夫なんて言ってないで、自分の意思を持って会社休めと伝えたかった。最初は本当に人が入らなかったけどね、今年は金曜が一番入った」

 近年、政府の音頭で始まった働き方改革は、上からの勤労時間短縮の改革だが、20年も前に日高は精神的な働き方改革を訴えていたということだ。

 昨年は、ノーベル賞の授賞式にさえ出なかった77歳のボブ・ディランがフジロックに登場して話題になった。

 「出たいという連絡があって、えーっと驚いた。風に吹かれるままドタキャンされても困るなあって思ったけどね。10代の孫がディラン世代の爺さんはこういう音楽聴いてたのかって知り、爺さんはラップ聴いて何言ってるかわからんなんて言いながら、3世代で音楽を一緒に楽しんでくれるのが俺の夢なんですよ」

 実は今年、3世代でフェスにやってきた家族を知っている。継続してきたからこそ世代を超えた音楽との出会いが生まれつつあるが、「完成だと思ったり能書き垂れるようになったら終わりだろ」という70歳の日高の好奇心と行動力は、微塵も衰えない。今頃もきっと、テントと自炊用具を積んだ車で、ワクワクする出会いを求めて世界のどこかの空の下を走っているはずだ。

石塚定人=写真

  
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◆「ひととき」2019年11月号より

 

 

 

 

 

 

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