2024年11月22日(金)

WEDGE REPORT

2019年12月10日

 ラテンアメリカの国境を接する二つの国で、片や新自由主義による改革が今まさに断行されようとし、片や新自由主義が諸悪の根源として断罪される。一体、新自由主義はラテンアメリカの課題に対し有効な処方箋たりうるのか、あるいは、そうでないのか。

 第一に、経済がどういう状況にあるかが重要だろう。

 如何なる経済政策であれ、それが実施される経済の状況次第でそれは薬にもなれば害にもなる。ブラジルは、長年温存されてきた公務員優遇政策に加え、2000年代からの左派政権による財政の急速な悪化がある。国家の肥大化と財政の悪化はもはや待ったなしだ。不必要な所を切り国家をスリム化することが不可欠なのだ。

 片や、チリは、長く新自由主義の下、活性化された市場が主導する形で高い成長を続けてきた。しかし、その成長の果実は国民全般に均霑せず格差が拡大した。国民は今、その是正を求めている。両国で対応が異なるのは当然だ。経済がいかなる状態にあろうと一律に新自由主義を適用し、あるいは、適用を見直せばいい、というものではない。

 第二に、如何なる政策といえども、タイミングを誤ると効果が上がらないばかりか、逆効果になる。

 今、ラテンアメリカ経済は2000年代の一次産品ブームが去り逆風の中にある。経済が逆風にあるとき、それが新自由主義であれ、社会民主主義であれ、成果は期待しにくい。あれほど大きな業績を上げた左派のモラレス前ボリビア大統領も、さすがに2014年以降は精彩を失い、大盤振る舞いできる状況になくなっていった。対する右派のチリでも、銅価格の低迷による成長の鈍化が国民の不満を招くことになった。

 ブラジルで、いかに新自由主義の改革が焦眉の急だからといって、今のタイミングで成果を焦ることが得策かどうか、政権としてはここは慎重に見極める必要があろう。今や、ラテンアメリカ中が不安定な政治状況にある。新自由主義であれ社会民主主義であれ、この条件下で、国民に果実をもたらすことは至難なのだ。案の定、ボルソナロ大統領はここにきて、公共部門改革パッケージ法案の提出に待ったをかけた。隣国の状況を見るに、今こういう法案を矢継ぎ早に審議するのは得策でない、という。

かつてないほどの改革の機運

 他方、ブラジルでは今、国民の間に、かつてないほどの改革の機運が充溢している。だからこそ、あれだけ根強かった抵抗を抑え込んで年金改革法案が通過した。この機運を逃すわけにはいくまい。そういう盛り上がる機運と、今は政策を実施するタイミングとして適当でないという条件を、どう天秤にかけるか。ここは微妙なかじ取りが要求される局面だ。舵の方向を間違えば船は一気に沈没しかねない。

 ボルソナロ大統領は「我々は、いかなる事態が起きようと、対処の手はずは整っている」と言うが、ポピュリスト政権がこの微妙な時期を乗り切っていけるか、ブラジルは政権の命運がかかる重要な局面に差し掛かった。

  
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