2024年12月5日(木)

WEDGE REPORT

2019年11月16日

  • ボリビアでは大統領選直後から、選挙不正の噂が高まる
  • 選挙監視をした「米州機構(OAS)」が不正の証拠を突き付ける
  • モラレスは、選挙のやり直しを決めるも、国民の怒りは収まらず
  • 国を統治する者もそれに代わって代理統治する者もすべていなくなった
  • 結局、権力は長期化すれば腐敗する
メキシコに亡命したモラレス前大統領(REUTERS/AFLO)

 ボリビアはさながら無政府状態に陥ったかのようだ。3週間に及ぶ国民の抗議活動の結果、ついにエヴォ・モラレス大統領が辞任、副大統領、上下両院議長もそれに続いた。治安は軍司令官であるウイリアム・カリマン将軍によりかろうじて維持されている。

 10月20日の大統領選挙直後から、モラレス氏側による選挙不正操作の噂が国内を駆け巡った。普通ではありえない数の無効投票が報告されている、ある選挙区では投票率が100%とされ投票済用紙が書き換えられているらしい、等。国内最大都市サンタクルスのルイス・フェルナンデス・カマチョ氏主導によるデモが毎日のように繰り返された。サンタクルスのデモは国内全土に波及、モラレス氏の辞任を要求していく。

 米州機構(OAS)による報告が決定的だった。OASは選挙監視要員をボリビアに派遣、その適正な執行を見守っていた。選挙が終わってからは30名余りからなる調査団も現地入りした。そのOASがついに報告書を公表、選挙における数々の不正を明らかにした。曰く、各選挙区の投票状況を記したリストが不正に書き換えられていた、選挙結果を通知する各選挙区と中央を結ぶコンピューターのソフトに不正が見つかった、等々。

 大統領選挙規定により、モラレス氏が、決選投票を経ることなく第一回投票で当選を決めるためには、第二位候補者に10ポイント以上差をつけなければならない。総投票数590万票のうち、モラレス氏は第一回投票で第二位候補者に対し10ポイントをわずかに3万5000票上回る票を得た。不正操作がなければ得票は3万5000票少なくなっていたかもしれない。

 OASが突きつけた不正操作の証拠を前に、モラレス氏に選択の余地はなかった。当初、モラレス氏は不正操作の噂を「陰謀」と片付け、それでも国民の抗議が収まらないのを見てやむなく「決選投票実施」を承諾した。しかし、事態はそれで収まるものではなかった。ついに10月10日早朝に至り、モラレス氏は「選挙自体をやり直す」ことを言明したが、これも国民の受け入れるところとはならない。ついに警察の一部まで治安維持を放棄しデモに参加しはじめた。

 国内は既にすべての機能がマヒしている。ストは全土に広がり、国内全ての経済活動が止まった。スーパーは午前中のみ営業が認められ、食料を積んだ車両がバリケードを通過していく。その他、通りを走るのは救急車や警察等、緊急車両のみだ。国民は勤務に向かう代わりに路上に出、抗議デモに加わる。とうとう軍が最後通牒を出した。これが止めとなった。軍の辞任勧告を受け、10日午後、モラレス氏は辞任を発表した。

国を統治する者もそれに代わって代理統治する者もすべていなくなった

 しかし、その辞任会見がさらに火に油を注ぐ。モラレス氏は、これ以上の流血の惨事を防ぐため大統領職を辞する、これは市民、政治家、警察によるクーデタだ、と述べた。この期に及んで自らの責任を認めることなく国民も加わったクーデタとは何事か。デモ参加者は怒りに任せ商店の破壊を繰り返していく。閣僚の多くは既に辞任、最高選挙裁判所長官も辞めた。一部裁判官は選挙結果の認定に不正があったとして警察に逮捕された。知事、市長は身の危険を感じるとし、既に何名かが職を辞した。

 つまり、ボリビアには国を統治する者もそれに代わって代理統治する者もすべていなくなった。デモ参加者は、家々に火を放ちバスや車両がそこかしこで破壊される状況だ。この先、国内の混乱をどう沈静化していくのか道筋は見えていない。とりあえず12日、上院第二副議長のヘアニーネ・アニェース氏が暫定大統領就任を宣言した。同氏の任務は90日以内に改めて大統領選挙を行うことだ。これに先立つ11日、モラレス氏は逃げるようにしてメキシコに亡命していった。

 最悪の事態といっていい。ボリビアの民主主義の歴史に汚点が刻まれた。

 モラレス氏は13年の治政で立派な業績を残した。同氏の在任の間、ボリビアのGDPは4倍に増え、国内の貧困は半減した。天然資源から上がる収益は遍く貧困層に均霑され、先住民の権利はこれまでになく拡大された。もし仮に、モラレス氏が4選を狙うことなく、3選で大統領を辞していたなら、ボリビアの偉大な大統領として歴史にその名を刻まれていたに違いない。

 しかし、モラレス氏は4選を目指した。わざわざ国民投票で4選の是非を問い、しかも、国民がノーと言ったにもかかわらず、4選禁止を定める憲法を米州条約違反として裁判所に提訴、そのお墨付きの下に4選に打って出た。挙句の果ては選挙の不正操作により、決選投票を経ることなく第一回投票で大統領当選が確定するようにした。どうしてこうまでして大統領職にこだわったか。


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