2024年12月11日(水)

Wedge REPORT

2019年5月27日

大統領拝を朝乃山に授与するトランプ大統領(AP/AFLO)

 令和最初の本場所を迎えた角界が〝トランプフィーバー〟で右往左往した。25日に東京・両国国技館で行われた大相撲夏場所の千秋楽にドナルド・トランプ米大統領が安倍晋三首相とともに来場。正面最前列の升席にソファのようなイスが設けられ、そこに両首脳夫妻らが腰掛けて観戦し、約1時間滞在した。

 天皇陛下ですら2階の貴賓席に座るのが通例にもかかわらず、わざわざ升席をイスに〝改造〟して座ったVIPは過去に1人もいない。その周りをSPが取り囲む様子も物々しい雰囲気で何となく異様な光景だった。とにかく何から何まで異例ずくめであった。

 午後5時前、取組が行われている最中にトランプ大統領が国技館に姿を見せると、それに合わせて進行も一時中断し、館内にいた観客の多くは総立ちになった。升席周辺にはスマホを手に撮影するお客さんが数多く見られたが、その流れに反発して「座れよ、立つんじゃない!」「トランプじゃなくて相撲を見に来たんだろ!」などと怒声を浴びせながら戒める人たちもいた。

 こうした館内の騒然とした空気に水を差されてしまったのか。今場所優勝力士の前頭8枚目・朝乃山は小結・御嶽海とトランプ大統領の登場直後に行われた初顔合わせで寄り切られて完敗。VIP登場のざわめきが沈静化しない中で再開された取組に勝った御嶽海も「朝乃山がかわいそう」と思わず同情するほどだった。

 それでも幕内最高優勝の表彰式で朝乃山がトランプ大統領から新設の米国大統領杯を直接受け取ると館内が割れんばかりの拍手と大歓声で盛り上がったように、世の多くの人たちもワーワーと騒いで完全に〝トランプフィーバー〟の流れに飲み込まれてしまった感は否めない。

 個人的に言わせてもらえば、トランプ大統領の大相撲観戦はまったく悪いことではないと思う。むしろ日本の誇る大相撲が世界中にニュースとして打電され、広まることは大いに素晴らしい流れであるはずだ。ただ、いくら超VIPのトランプ大統領が観戦するとはいえ、日本相撲協会側はもう少し冷静になって「平常運転」を貫き通すことが出来なかったのだろうかと考えさせられた。そういう意味でも、御嶽海の言葉ではないが「朝乃山がかわいそう」だと感じずにはいられない。

 日本の政府側から千秋楽で安倍首相とトランプ大統領が揃って升席で観戦し、両者がそれぞれ内角総理大臣杯と米国大統領杯を手渡すプランを持ちかけられれば断る理由などない。ましてや公益財団法人の資格を有している以上、なかなか政府に注文や条件も付けづらいだろう。

 だが、どうしてもトランプ大統領の来場に世の中の視線が釘付けになり過ぎるが余り、肝心の25歳の若手力士・朝乃山の優勝はどこか隅のほうへ追いやられる格好となってしまった。

 平幕の優勝は昨年初場所の栃ノ心以来。三役経験のない力士に限ると1961年夏場所優勝の佐田の山以来58年ぶりの快挙である。しかも朝乃山は新入幕から11場所目の幕内優勝で、年6場所制になった58年以降では貴花田(後の貴乃花)、そして曙ら後の名横綱にも並ぶ8位のスピード記録となった。しかも令和最初の本場所での優勝力士なのだ。

 こうした快挙が大々的に取り上げられないのは何だか寂しいし、協会側は「トランプファースト」ではなく「力士ファースト」になれるような段取りを組めなかったのかなと感じてしまう。

 NHKで放送された千秋楽の大相撲中継も前日の14日目の時点で朝乃山が優勝を決めていたこともあるが、当日の放送は終盤の大部分が〝トランプフィーバー〟に席巻されていた。誰が考えてもトランプ大統領に話題をかっさらわれることはあらかじめ分かっていたわけだし、もっとうまく優勝力士がクローズアップされるような段取りを前もって各メディアに仕込んでおく工夫は出来なかったのだろうか。


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