2024年11月22日(金)

WEDGE REPORT

2019年11月16日

権力は長期化すれば腐敗する

 民主主義の下での選挙は二つの前提から成り立つ。一つは、敗者は野党に回り他日を期すということであり、もう一つは、勝者は、今日の敗者が他日勝利した時、潔く政権を明け渡すということだ。互いが選挙の結果を尊重し政権交代を保証する。それにより、敗者は、他日勝利し政権を取ることを期待し、今日安んじて野党に甘んじようとする。

 モラレス氏は今回、対立候補のメサ氏が勝利しかねないと知った時、政権を明け渡すことを恐れた。そういう事態を招かないよう不正を働いた。民主主義の基盤が脆弱な所では、一度大統領職を辞してしまうと敵対者に排斥される危険がある。大統領職にとどまることだけが身の安全を保障する。アフリカなどでまま見られるが、モラレス氏はだから権力にこだわったのか。

 しかし、ラテンアメリカでは民主主義が根付いて既に久しい。その間、ある時は左派が優位し、またあるときは右派が支配した。その移行は概して平和裏に行われた。モラレス氏だって、13年前、平和裏にメサ氏から政権を受け継いだ。今回、権力を手放したとしても他日を期すことはできたはずだ。それがなぜできなかったか。先住民出身大統領として、先住民の権利拡大や貧困撲滅は未だ道半ばであり、今ここで改革をやめるわけにはいかない、と考えたか。しかし、それは権力の執着以外の何物でもない。

 結局、権力は長期化すれば腐敗する。権力者にはおごりが生まれるし、次第に権力が集中していくとの危険もある。権力はそもそも腐敗するものだ。腐敗は権力に内在し、権力が長期化するにつれそれが表面化していく、と見るべきかもしれない。

 先人は、結局権力は腐敗するものだと諦観した上で、これを防ぐ仕組みを考えた。さしあたり権力者の任期を区切る。しかしそれだけでは足りない。結局、権力で権力を抑制する仕組みが必要だ。権力分立である。アメリカ独立の際、憲法起草者は権力の腐敗を防ぐ方法はこれしかないと考えた。ヨーロッパでも権力で権力を抑える仕組みが取り入れられた。

 今日、日本の民主主義は健全だ。選挙も正しく機能している。しかし、権力が権力により有効に抑制されているか、それは不断のチェックが必要だ。権力の抑制は制度がそうなっているだけでは足りない。実際に権力の抑制機能が働いているかどうか。知らず知らずのうちに抑制機能がマヒしていることはないか。

 日本で、野党が存在しないかのごとく弱体であり続ける現状は危険だ。権力のおごりを防ぐためにも、また、権力の集中を防ぐためにも、健全な野党の育成こそが今の日本に求められる。

 権力は腐敗する。人間はそういう歴史を繰り返してきた。

  
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