2024年11月22日(金)

田部康喜のTV読本

2019年12月8日

4K・8Kを意識した演出

 観ているものに、居間の空間と登場人物たちの位置関係を立体的に感じさせる、ひとつの仕掛けが、淑江(中山)と道彦(岡本)の夫婦がバラ園から切り取って活けたバラの花瓶である。カメラは、この花瓶をときに近景として、中景として、あるいは遠景として使って巧みに映像を作っている。

 3Dテレビや映画が話題になったのもつかのまで、いまや記憶のかなたにあるのは、視神経への過度な刺激によって、感覚が狂わされるからである。映画の鑑賞に特殊なメガネをかけて、鑑賞する3D映画は、アルフレッド・ヒッチコックの「ダイヤルMを廻せ!」(1954年)などでも試みられたが、観客の感覚が狂わされて下火になった。

 4K・8Kは、いうまでもなく平面に映像を映し出す。超大型画面にすれば、演劇の舞台やスポーツ中継なども、カメラのアップなしでも鑑賞が可能である。

 テレビの草創期に、映画とは異なる映像表現を追及したプロデューサーや演出家たちは、テレビが「現在」つまり今を映しだすことと、表情のアップに活路を求めた。

 テレビが大型化の傾向にあるとはいえ、家庭用には限界がある。今回の「Wの悲劇」も役者たちのアップが効果的に織り込まれている。与兵衛の殺人事件を追う、ベテラン刑事・中里右京(渡辺いっけい)が、容疑者と思われる人物が地面に残した足跡の謎に挑むシーンや、捜査会議でひとり和辻家の内部犯行を主張するシーンなど、アップの迫力は従来のテレビと変わらない。

 ドラマは、和辻家の人々がさまざまな工作をして、摩子の犯行を隠蔽した。しかし、中里(渡辺)が揺さぶりをかけて、真相が徐々に明らかになってくる。そして、どんでん返しとなって、本当の犯人が浮上する。

 薬師丸ひろ子主演の映画は実は、原作のストーリーを「劇中劇」の形で取り込んで、薬師丸が劇団員を演じた。彼女が身代わりとなったのは、大物女優のスポンサーが同室で死亡した事件だった。身代わりの代償として、薬師丸は「劇中劇」の主役に抜擢されるのだった。

 今回の土屋太鳳版も、薬師丸ひろ子版も、そのどちらも傑作である。フィルムと4Kという表現形式の差があるにすぎない。やはり、薬師丸主演の「セーラー服と機関銃」(1981年)は、すでに4K Blu-ray版(2014年)化がなされている。映画のフィルムには、デジタル化すると4Kに相当する情報量がある。

  
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