ホームゲーム日にもあふれる試合以外のコンテンツ
そして試合当日もゲームそのもの以外のコンテンツが溢れていて、スタジアム周辺には3時間以上前から多くの人たちで賑わっていた。クラブの依頼により出店した雑貨屋で親子連れが買い物し、子供達と折り紙を楽しむなど、それぞれの時間を過ごしていた。中には夏祭りで見るような射的のゲームまで用意されている。
サンワカンパニーフードコートには約15店舗の飲食店が並んでいる。責任者は合同会社GTOの統括ディレクターを担う大木鉄兵氏だ。岡田氏との出会いからスタジアムを盛り上げるコンテンツ作りを担うこととなり、FC今治から委託料をもらってプロデュースする空間となっている。完全に外の人がグルメを仕切るのではなく、地元色を残すためにも岡田氏は2017年に西日本B-1グランプリで焼豚玉子飯をゴールドグランプリに受賞させた経験もある “人材”を活用し、地域とチームを盛り上げる。
お馴染みの店舗は残しつつも、試合ごとにテーマを企画し、出店する飲食店を変えてサポーターのお腹を満たしている。最終節は肌寒い季節になってきたことも考慮し、「ラーメン」をテーマにした。毎回アウェークラブの街を代表するB-1グルメのお店にも出店を依頼しており、ラインメール青森が相手だったこの日は青森の十和田バラ焼きを提供していた。横には今治の焼豚玉子飯が並び、フィールド外でも青森と今治が“対戦”する構図となっている。これを可能にしているのは大木氏がB−1グランプリで培った県外でのネットワークにもある。この日も実際には青森から担当者は来ることが出来なかったが、細かいレシピや販促物は全て現地に住む知人から提供されたものを今治で用意出来ている。
昨年まではチケットを持つサポーターのみに閉ざしていた空間だったが、今年は全ての方に開放したことで試合中でも人は絶えず食事を楽しんでいた。ふらっと立ち寄った人が楽しめるクレープやタピオカなども並んでいる。
飲食店がスタジアム周辺に並び、チケットがない人でも楽しめる空間。これはプロ野球の楽天ゴールデンイーグルスの楽天生命パーク宮城や、J1川崎フロンターレの等々力陸上競技場でも見ることの出来るお祭り要素を生み出す。通常はチケット所有者がスタジアム内でしか味わえない雰囲気を地域の人も楽しみ、そして新たなファンを生み出す場と化する。試合だけでないコンテンツをクラブ側が生み出し、サポーターだけでない人達を呼び込む仕掛けは以前から増えてきているが、地方クラブであればあるほどその重要性は増す。
そしてカスタマージャーニーは試合後にも続いていく。隣の商業施設イオンにはFC今治当日入場チケット半券及び、年間パスを試合当日レジにてご提示することで衣料品、食料品、暮らしの品が5%オフとなる。試合観戦を終えたユニフォームを着た人達がそのまま買い物をする姿もあった。試合を戦い終えた選手達が出向いて、試合の熱気が冷めないままの状態でサイン会も行っているという。
クラブ運営に関わるバックオフィスには約25人いるが、今治に長く住んできたことがあるのは約9人。“地元”出身ではない者達が地域に根付くには色んな苦労があるだろう。だが少しずつサッカーだけではなく様々なコンテンツを提供し、あらゆる活動を経て今治を元気にしているのは間違いない。
「サッカーが核であり、収入のほとんどを占めますがみんなの意識としてはサッカークラブというよりは夢スポーツという企業理念に沿った地方のスタートアップに働いている感覚を持っていると思います」
中島氏の言葉にもあるようにまだスタートしたばかり。まだまだこれからJリーグの舞台でさらなる挑戦が続いていく。
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