Washington Files

2020年1月14日

»著者プロフィール
著者
閉じる

斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。近著に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

イランは本格的開発に向けて大きく一歩を踏み出す

 一方、イランはスレイマニ殺害に対する報復措置の一環として、去る5日、同国が米英仏独および中ロの6カ国との間で結んだ核合意(通称イラン核合意)が定めた規制について、事実上すべて撤廃するとの声明を発表した。

 この結果、イランは本格的開発に向けて大きく一歩を踏み出すことになったが、最も懸念されるのは、北朝鮮がこれをきっかけにイランとの核開発のための協力関係を強化しかねない点だ。

 もともと両国は、北朝鮮がイラン―イラク戦争(1980-88年)でイラン側を支援して以来、自国製兵器を積極的にイラン側に売却を続けるなど、緊密な関係を維持してきた。その過程でイラクとは国交断絶に至っている。

 その後も今日に至るまで北朝鮮は、とくに軍事技術面で対イラン支援を続けてきており、2017年1月にイランが発射した中距離弾道ミサイルも、北朝鮮製の「ムスダン」だったとみられている。

 加えて金正恩氏自身は去る12月31日の演説で「わが国が保有する大陸間弾道ミサイルおよび弾頭の発射実験一時停止措置について、今後は順守するつもりはない」と言明、これに呼応するかのように、イラン政府側がその5日後に「イラン核合意規制の撤廃」を発表した。

 この結果、トランプ政権は、朝鮮半島と中東の両地域において深刻な「二つの核の脅威」を同時に増幅させるかたちとなった。

 この点について、かつて海兵隊で北朝鮮問題を研究後、国防総省でインテリジェンス分析を担当、現在、米海兵隊大学講師のブルース・ベクトル氏は、デジタルメディア「Daily Beast」に対し、次のように指摘している:

 「イランはこれまで、北朝鮮から巨額の兵器類を買い付けてきたほか、北朝鮮製の多岐にわたる軍事物資やノウハウをシリア、ヘズボラ、フーシ勢力などにも転売するなど、協力関係を着実に拡大,深化させてきた。今回、アメリカによるスレイマニ殺害を受けて、イランの大群衆が『アメリカに死を!』を叫び、ハメネイ最高指導者も『痛烈なる報復』を約束したことで、北朝鮮への依存をより強めることになる。

 イラン軍事顧問団はこれまで、北朝鮮が行ってきた多くのミサイル発射実験の現場に立ち会い、調達方法についても学習を重ねてきている。北朝鮮がイランに戦略兵器を売却するかと問われれば、『イエス』だ。北朝鮮は軽機関銃から潜水艦、そして中距離弾道ミサイルに至るまで何でも売り渡してきた」

 また、北朝鮮問題の専門家として知られるランド・コポレーションのブルース・ベネット氏も「両国軍事協力関係は一般に伝えられている以上に詳細かつ深く、今後何か月の間にさらに拡大する可能性がある。もし、イランがアメリカを対象にテロ活動を開始することになれば、北朝鮮は“深刻な挑発”に向けてアドバイザー役を演じることになるだろう」と分析している。

 ただ、北朝鮮およびイラン双方とは緊密な関係にある中国は、中長期的に見て、両国が今後、過激な行動を繰り返し、いたずらに国際緊張を高めることは決して望んでおらず、国連の場などを通じ、自制をうながしていくものとみられる。

 したがってわが国含め今後の国際社会の最大の関心は、イラン、北朝鮮両国が核開発を含めた軍事協力拡大について、具体的にどのような動きを見せていくかにあるといえよう。

 こうした中で、トランプ大統領はスレイマニ殺害後、去る8日、金恩正氏宛てに「誕生日を祝う親書」を送ったと伝えられる。その具体的中身は明らかにされていないが、敵意をむき出しにしたイラン体制とは異なり、金体制とは引き続き対話路線を追求する意向を改めて示すとともに、北朝鮮側に核開発などについて自制を求めたことは間違いない。これに対し、金氏がどのような反応を見せるかも今後の米朝関係を見る上で、大いに注目される。

  
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。

関連記事

新着記事

»もっと見る