民進党が圧勝したわけではない
今回、蔡英文政権には、習近平氏の一国二制度発言と香港デモという強力な追い風が吹いた。さらには国民党候補が想像以上の低レベルだったという原因もあって、蔡政権は文字通り「V字回復」したわけだが、今回の大勝はこれらの「外部要因」に依るもののほうが多かったと思われる。その根拠として、政党別に投票される比例票が挙げられる。
選挙前は、立法委員の議席数で民進党が過半数(定数113)を維持できるかどうかがもう一つの焦点とされた。総統選挙で民進党が勝利しても、立法院の議席で過半数を維持できていないと「ねじれ国会」となり、スムーズな政権運営が出来ないからだ。結果、やや議席を落としたものの、61議席を確保した。そのうち日本の比例代表に相当する「不分区」での民進党得票率は33.98%、一方の国民党得票率は33.36%でほぼ同数である。さらに、国民党は小選挙区でも3議席増やしている。
これはおそらく、蔡英文政権に対する不満が、比例票に現れたものである。つまり、有権者も蔡英文総統のこれまでの4年間の成績が「決して良いとは思っていない」のである。しかし、中国と融和的な姿勢を見せる国民党はもっとダメで、しかも国民党候補は輪をかけてダメ。しょうがないから蔡英文に入れるか、という中間層が相当数いたと思われる。その一方で、立法委員を選ぶ際には、「国民党候補にも評価できる、あるいは期待できる候補がいる」という選挙行動によって、政党票が国民党にも投じられたと推察する。それが、総統選挙では蔡英文候補の爆勝になりながらも、政党票では両党が拮抗、という結果になったのであろう。
蔡英文政権のこれからの課題
総統選挙で200万票以上の大差がついたことで、一部では「国民党は再起不能」とも言われている。しかし立法委員選挙の結果をみれば、むしろ国民党は相対的に票を伸ばしている。結党100年以上の老舗がそう簡単に潰れるはずはない。ひまわり運動後の統一地方選(2014年九合一選挙)では軒並み民進党首長が誕生し、あのときも「国民党結党以来最悪の敗戦」「国民党はもはや消滅するのでは」といわれた。しかしその4年後、すなわち一昨年11月の統一地方選では、今度は民進党が大惨敗を喫し「2020年の蔡英文再選は消えた」といわれた。
台湾の選挙あるいは政局ほどダイナミックな変化を伴うものはない。きっと国民党はしぶとく生き残って復活してくる。そのためにも、蔡英文政権は今後の4年間を、これまでの4年間以上に頑張って成果を出さないと、2024年のバトンタッチをスムーズに行えないだろう。
李総統が心から願う日台関係の緊密化だが、両国間では、福島県ほか5県の農産物輸入問題がこれまでの4年間で解決できておらず、小骨のように突き刺さったままになっている。台湾に住む日本人としては、とくに日台関係の促進をぜひ頑張っていただきたいと願うとともに、私たち日本人もまた台湾側の思いに応えられるよう努力していかなければならないと感じた総統・立法委員選挙であった。
1977年栃木県足利市生まれで現在、台湾台北市在住。早稲田大学人間科学部卒業。大学卒業後は、金美齢事務所の秘書として活動。その後、台湾大学法律系(法学部)へ留学。台湾大学在学中に3度の李登輝訪日団スタッフを務めるなどして、メディア対応や撮影スタッフとして、李登輝チームの一員として活動。2012年より李登輝より指名を受け、李登輝総統事務所の秘書として働く。