日本人秘書が明かす李登輝元総統の知られざる素顔

2019年10月24日

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早川友久 (はやかわ・ともひさ)

李登輝 元台湾総統 秘書

1977年栃木県足利市生まれで現在、台湾台北市在住。早稲田大学人間科学部卒業。大学卒業後は、金美齢事務所の秘書として活動。その後、台湾大学法律系(法学部)へ留学。台湾大学在学中に3度の李登輝訪日団スタッフを務めるなどして、メディア対応や撮影スタッフとして、李登輝チームの一員として活動。2012年より李登輝より指名を受け、李登輝総統事務所の秘書として働く。

 9月16日、台湾は南太平洋の島嶼国ソロモン諸島と断交した。その4日後の20日には同じ地域のキリバスからも国交断絶を突きつけられるという事態が起きた。

 毎回台湾がどこかの国と国交断絶する際は、事前に「どうやら○○との外交関係が危ういらしい」という報道が流れ、それを外交部長(外務大臣)や総統が「両国関係は安定している」と躍起になって否定する。しかし、その数週間後には案の定、断交という結果となるのが毎度繰り返されるパターンだ。蔡英文総統が2016年5月に就任して以来、台湾と断交した国は6カ国目だが、毎度同じような政府高官による「否定合戦」が繰り返されるので、「○○との外交関係が危うい」という報道が出たらもはや断交はカウントダウンに入っているのだろうな、と感じることが常となってしまった。

2018年8月、エルサルバドルとの断交後に会見した台湾・蔡英文総統(写真:ロイター/アフロ)

台湾断交を迫る「中国の手口」

 報道では、中国と距離を置く蔡英文総統の民進党政権に圧力をかけ、台湾の国際生存空間を狭めるために、中国が台湾と国交を有する国に有形無形の圧力をかけ続けた結果、といわれている。

 はっきり言って、台湾と国交がある国は、バチカンやパラオを除けば、ほぼ無名の小さな国家ばかりだ。よって財政的にも苦しかったり、インフラ設備などの支援を渇望している国も多い。台湾もそれらの国々に金銭的な支援を続けてきたが、中国はそれを遥かに上回るような金額やインフラ整備の支援を提示することで、台湾との断交に踏み切らせる手口があるそうだ。

 

 ただ、これらの小さな国々も、実際には結構したたかで、中国が支援額を提示すると「台湾はもっと出すと言っている」と金額を釣り上げたり、台湾に対しても「中国がこれだけの額を出すと言ってきたのだが」などと、台湾と中国を手玉にとっていた国もあったという。そうした交渉を経た国交断絶は、蔡英文政権以前にも発生していたが、近年中国の提示する金額がうなぎ登りに上昇し、財政的に苦しい国々にとっては飛びつきたくなるような状況が生まれているという。

 李登輝政権下でももちろん国交を有する国を失うことはあった。というよりも、いわゆる「主要国」を失ったのは李登輝時代がいちばん多かったといえるだろう。1992年にはアジアで最後まで国交を有していた韓国と断交しているし、97年には南アフリカと断絶した。特に南アフリカは、台湾にとって国交を有していた国のなかで最後の「主要国」といえ、誤解を招く表現だが、これによって残ったのは小国だけになってしまった。

 

 前回の記事でも書いたが、李登輝は南アフリカのネルソン・マンデラ大統領に非常にシンパシーを抱いていた。日本の統治、あるいは戦後の国民党独裁体制という、台湾人としての尊厳を傷つけられた時代を生き抜いてきた李登輝にとって、アパルトヘイト体制のなかで30年近くも投獄された経験を持ち、国民の融和のために「レインボー・ネイション」を掲げたマンデラが、やはり同様にエスニックグループの融和を目指す「新台湾人」を掲げた自分の姿と重なったのではないだろうか。

 南アフリカは、アパルトヘイト政策によって国際社会から制裁を受け孤立していたが、日本人や台湾人は特殊な地位を得ていた。「名誉白人」という言葉を聞いた記憶がないだろうか。欧米から距離を置かれる一方、経済的には南アフリカと密接な関係を持つ日本や台湾の人々は、白人と同様の扱いを受けていたのである。

 ただ、台湾にとってアフリカ最大の国交国も、中国の巧妙な手口には敵わなかった。契機となったのは1997年の香港返還である。香港が中国に返還されると、中国は南アフリカに対し、台湾と国交断絶し、中国と国交を樹立することを迫った。さもなくば、南アフリカ領事館の設置を許さない、と脅したのである。

 南アフリカには、日本や台湾のほか、香港出身の華僑も多かったため、香港における外交機関を失うことは南アフリカにとって痛手になることだった。

 当時、南アフリカは経済成長が頭打ちになっていたため、経済関係拡大を目指すため中国との国交樹立を迫る国内の声に抗えず、マンデラ大統領は1997年末で台湾との外交関係を終了せざるを得なかったのである。

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