Wedge REPORT

2020年1月22日

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 市内の主要駅には「駅前送迎保育ステーション」が設置され、そこに子どもを預ければ、市内の各保育所まで送迎してもらえる。子どもを21時まで保育ステーションで預かってもらうこともでき、夕食提供サービスもある。保育所の数も大幅に増やし、昨春には、コンビニの数を上回った。10年の17から20年には77になる見込みだ。こうした子育てのしやすさを、首都圏内の駅に「母になるなら、流山市」という印象的な大型ポスターを展開するなどして大々的にPRしている。

 一方で、流山市に人口を吸い取られているのが、隣接する松戸市だ。13~18年の5年間で約1700人が流山市に転出した。松戸市も、ターゲットにするのは30~40代の共働き世帯で、市内全23駅の駅前・駅中に保育施設を整備し、保育施設の利用定員数を直近5年間で約3000人増やすなど、子育て世帯に優しい環境を整えている。さらに、こうした取り組みをまとめたガイドブックを市川市や船橋市などの近隣市や東京都内のイオンの中に設置するなど、他の自治体へ積極的にPRしている。だが、流山市への流出は止まらない。

 松戸市総合政策部シティプロモーション担当室長の小北真弓氏は、「流山市の斬新な子育て施策や印象的なPRは同じ世帯層を対象にする松戸市としても意識しており、更なる魅力発信に努めている。ただ、流山市への転出超過は、つくばエクスプレスによる都心へのアクセスの良さや、住居の供給量が増えていることが強く影響していると思う。シティプロモーションの担当課としては歯がゆい状況だ」と語る。

 他方で、人口争奪戦の勝者となった自治体にも副作用をもたらしている。流山市総合政策部マーケティング課長の河尻和佳子氏は、「市内で子どもの数が急増したことで小学校の数に余裕がなくなるなど、公的施設の収容能力が限界に到達するケースが出てきている。数年以内に3つの小学校を新設する予定でいる。今は転入増による歳入の伸びとハード整備などの歳出が同じくらいになっている」と新たな課題について話す。

 Wedge2月号の特集「幻想の地方創生」では、こうした自治体間による「子育て世帯争奪戦」が、ゆがんだ医療費の助成競争を引き起こしている実態もレポートした。政府の担当者もゼロサムゲームの様相を呈した不毛な自治体間の人口争奪戦の実態を認める一方で、驚くことに「人口減少、東京一極集中という問題の深刻さを各自治体が認識してくれる機会になったことは、それを上回る効果だ」と強弁する。しかし、このまま地方創生第二期に突き進むと、自治体の弱肉強食が加速することは避けられないだろう。

現在発売中のWedge2月号では、以下の特集を組んでいます。全国の書店や駅売店、アマゾンなどでお買い求めいただけます。
■幻想の地方創生  東京一極集中は止まらない
Part 1  地方創生の”厳しい現実” 「破れたバケツ」状態の人口流出を防げ
Part 2      人口争奪戦で疲弊する自治体 ゼロサムゲームでは意味がない
Interview 地方創生の生みの親が語る、第二期へ向けた課題 増田寛也氏
Part 3    「観光で地方創生」の裏で乱立する「予算依存型DMO」
Part 4      全ての自治体は自立できない 広域連携を促す交付税改革を
Column    農村から都市に移る国政の関心 地方の”自律”に向けた選挙制度とは?

  
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◆Wedge2020年2月号より

 

 

 

 

 

 

 

 

 
 
 
 

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