WEDGE REPORT

2020年2月26日

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木村正人 (きむら・まさと)

国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト。元産経新聞ロンドン支局長。米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員、慶應義塾大学法科大学院非常勤講師などを歴任し、2012年独立。近書に『欧州絶望の現場を歩く』(ウェッジ)。
 

 港のティーズポートには18・2平方キロメートルの遊休地があり、フリーポートに指定された暁には今後25年で52億ポンド(約7400億円)の投資が見込める。地域の失業率は7・2%(英国全体は3・8%)だが、サプライチェーンも含め3万2000人の雇用を創出、経済効果は20億ポンド、税収増は10億ポンドとハウチェン市長は算盤(そろばん)を弾(はじ)く。

 「ティーズバレーは英国全体の半分以上の水素を生産している。他の地域の機会と雇用を奪うのではなく、水素自動車や水素列車、水素発電所、水素ガスネットワークを生み出し、2030年温室効果ガス排出ネットゼロを目指す。洋上風力発電や二酸化炭素貯留にも期待している」

 電気自動車用リチウム・イオンバッテリーの生産工場「ギガファクトリー」誘致も可能性の一つだ。国際競争の荒波に飲み込まれて経営破綻し、中国の敬業集団が買収に合意した鉄鋼メーカー、ブリティッシュ・スチールの工場もティーズバレーにある。

フリーポート化を目指すティーズポート
(写真: MASATO KIMURA)

 リズ・トラス国際貿易相は昨年8月、ティーズポートで10のフリーポートを設ける構想をぶち上げた。ハウチェン市長は「ジョンソン首相は保守党党首選でも、総選挙でもフリーポート計画を掲げて戦った。今後数カ月のうちに構想は実現する。その時、ティーズポートは先頭ランナーだ」と自信をみなぎらせる。

 30年間、英国各地の港で働いた実績を持ち、ティーズポートを運営するPDポーツのジェリー・ホプキンソン最高執行責任者(COO)は「湾とそこに流れ込むティーズ川の水深は英国で最も深い。川沿いにさらに500万トン分、貨物の取扱容量を増やせる。25万重量トンの貨物船も利用できる」と言う。

ティーズポートを運営するPDポーツのジェリー・ホプキンソンCOO
(写真:MASATO KIMURA)

 水深の深い英国の港の75%は深刻な社会経済的問題を抱えるティーズバレーのような旧工業地帯に隣接している。

 「フリーポート構想は全てを解決する魔法の杖(つえ)ではない。しかし仕事や繁栄の機会を失った地域を復活させるのを後押しする。英国内の物流や製造業の配置を変えるのではなく、新しい産業を興す。ハウチェン市長とジョンソン首相のつながりは大きなアドバンテージだ」

 英財務省の首席政務次官を務める保守党のリシ・スナック下院議員(2月13日の内閣改造で財務相に抜擢)の報告書によれば、フリーポートやフリーゾーンは世界135カ国3500カ所に広がり、6600万人の雇用を創出。米国では250カ所のフリーゾーンが42万人の雇用と7500億ドルの商取引を生み出している。

 関税やVAT、規制から完全に自由なフリーポートとフリーゾーンを組み合わせたり、その中に工場や企業を誘致したり、世界のフリーポートには実に97もの異なるモデルがある。

 しかし、EU規制下で認められるフリーポートは短期間保管するだけの保税倉庫に毛が生えたようなもので、同一競争条件(レベル・プレーイング・フィールド)により国家補助金や税制、環境、労働条件に厳しいタガがはめられている。

 このため12年を最後に英国からリバプールやサウサンプトンなどのフリーポートは完全に姿を消した。ジョンソン首相が描くのは規制緩和や国家補助金を呼び水にフリーポートやフリーゾーンへ外資や21世紀型の製造業を呼び込む競争力ある産業特区だ。

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