WEDGE REPORT

2020年2月26日

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木村正人 (きむら・まさと)

国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト。元産経新聞ロンドン支局長。米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員、慶應義塾大学法科大学院非常勤講師などを歴任し、2012年独立。近書に『欧州絶望の現場を歩く』(ウェッジ)。
 

 スナック政務次官は「英国に真のフリーポートを作れば、必要な地域にサービスより製造業に寄った雇用8万6000人分を創り出す」と記す。

 イングランド北東部商工会議所のレイチェル・アンダーソン副会頭は「北東部経済の30%は製造業。政府の計画はまだ明らかではないが、保税倉庫と大差のないEU型のフリーポートを目指すことはないだろう。きっと広範囲なフリーゾーンを設けるはず」と読む。

 一方、英バーミンガム・シティ大学のアレックス・デ・ロイテルEU離脱研究センター所長は、「保税地区や広大な遊休地があるだけでは十分ではない。地域的なサプライチェーンの流れも考慮した政策パッケージが不可欠だ」と手厳しい。

 デ・ロイテル所長らのチームはイングランド中西部の200社以上を調査した。中西部の自動車、鉄道、航空宇宙産業のサプライチェーンはドーバー海峡を結ぶトンネルと南東部の港に依存しているため、EU離脱で物流が少し変わるだけで、あらゆる地域で輸送網に支障を来す恐れがあると警鐘を鳴らす。

 「中西部は自動車だけで5万人、関連部門でさらに2万人を雇用する。この地域の製造業は労働力の平均31%をEU移民に依存する。ホンダはすでに工場閉鎖を発表。EUとの貿易交渉が決裂し〝合意なき離脱〟に追い込まれ、ジャガー・ランドローバーが倒産する事態にでもなったら膨大な数の仕事が失われる」とデ・ロイテル所長は表情を曇らせる。北東部が浮いて中西部が沈むという近隣窮乏策は回避しなければならない。

 政府のフリーポート諮問委員会に属するケンブリッジ大学のメレディス・クロウリー博士は「昨年9月に第1回会合が開かれただけで諮問委員会は中断したまま。具体策は何も示されておらず、フリーポートの選考基準も決まっていない。何かを始められるとしても21年に入ってからだ」と打ち明ける。

大学と先端産業が牽引する
グローバル・ブリテン

 これまで議会で単独過半数を獲得し、EUから離脱するのがジョンソン首相の最優先課題だった。先の総選挙で保守党は「レッドウォール」と呼ばれる旧炭鉱・造船街などオールドレイバー(古い労働党)の支持を得た。「レッドウォール」を再活性化させるため、フリーポート構想に加え全国一律の法定生活賃金(労働者の生活を保障する賃金の下限)の引き上げを行い、国内経済の〝南北問題〟を是正しながら、EUに縛られずに世界と繋(つな)がるグローバル・ブリテンを目指す試練が始まる。

 英国の起業家ネットワーク、テク・ネーションの調査では、19年に企業価値が10億ドルを超えるユニコーンを8社も生み出した英国のデジタルテクノロジーへの投資は、前年に比べ31億ポンド増えて過去最高の101億ポンド(約1兆4400億円)を記録した。ドイツの54億ポンド、フランスの34億ポンドを合わせた額より多く、欧州全体の3分の1を占める。

 ベンチャーキャピタル投資は前年比44%増。成長率で見た場合、ドイツ41%増、フランス37%増、イスラエル22%増、米国20%減、中国65%減を上回り、世界首位に立つ。英国のユニコーンは計77社になり、ドイツの34社を圧倒する。

 英国にはオックスフォード大学やケンブリッジ大学など世界トップ100に入る大学が11校もあり、テクノロジーの拠点は全国に広がる。EU市民は離脱によって自由に行き来できなくなるが、米国や中国に比べるとはるかに就労ビザが取得しやすいという強みがある。

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