2024年11月22日(金)

日本人秘書が明かす李登輝元総統の知られざる素顔

2020年2月28日

台湾と中国の「決定的な違い」

 中国は今回のコロナウイルス騒動で、東アジアどころか、全世界をパニックに陥れた。感染はむしろますます拡大している。それでもなお、中国は台湾がWHOに参加することを「『一つの中国』の原則のもとで許可」と発言した。SARSのときと同様、人命や健康よりも、イデオロギーを優先する国家なのだ。

 李登輝は2018年に訪れた沖縄での講演で次のように語った。

 「中国の覇権主義に直面する台湾は、自主的な思想を持たなければならない。自分たちの道を歩む必要があるのだ。(中略)民主改革を成し遂げ、民主国家となった台湾は、もはや民族国家へと後戻りするべきではない。私たちは、幻の大中華思想から、脱却しなければならないのだ。台湾の国民が持つ共通の意識は『民主主義』であって『民族主義』ではないのだ」

 中国は「一つの民族に二つの国家はいらない」と明言している。中華民族には、中国はひとつだけ(中華人民共和国だけ)存在すればよく、中華民国は存在しない、という論法だ。李登輝は「民族主義」に走るべきではないと主張するが、個人的には、台湾が中国のいう「一つの中華民族」に入らない、別の「台湾民族」を打ち立てるべきではないかと考える。

 例えば、コロナウイルスの感染拡大の問題が報じられた当初から台湾政府の行動は素早かった。今のところ、台湾社会は冷静を保ち、感染者数も抑えられているようにみえる。ネット上では「我OK、你先領」というスローガンが踊った。「私たちは大丈夫だから、マスクが必要なところに優先して届けて」という意味である。

 政府が情報を公開し、国民の安全健康第一を掲げるとともに、国民も公徳心を発揮して行動する姿は、中国のそれと対をなすものである。これがまさに「台湾民族」を「中華民族」と決定的に異ならせる価値観になるだろう。台湾と中国の決定的な差を国際社会に示しつつ、やはり台湾が誇るべき最大の価値観は、李登輝が打ち立てた「民主主義」ではなかろうか。

連載:日本人秘書が明かす李登輝元総統の知られざる素顔

早川友久(李登輝 元台湾総統 秘書)
1977年栃木県足利市生まれで現在、台湾台北市在住。早稲田大学人間科学部卒業。大学卒業後は、金美齢事務所の秘書として活動。その後、台湾大学法律系(法学部)へ留学。台湾大学在学中に3度の李登輝訪日団スタッフを務めるなどして、メディア対応や撮影スタッフとして、李登輝チームの一員として活動。2012年より李登輝より指名を受け、李登輝総統事務所の秘書として働く。

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