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2020年3月6日

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永井隆 ((ながい・たかし))

ジャーナリスト

1958年群馬県桐生市生まれ。明治大学卒業後、東京タイムズ記者を経て、1992年にジャーナリストとして独立。雑誌や新聞、ウェブで精力的に執筆する。著書に『移民解禁 受け入れ成功企業に学ぶ 外国人材活用の鉄則』『EVウォーズ』『アサヒビール30年目の逆襲』『サントリー対キリン』など。

水面下で進むプロジェクト

 ちょうどこの頃、東京のサッポロ本社ではクラフトビールへの参入について、水面下で動きが始まっていた。

 というのも、何かと日本の先行指標となるアメリカ市場で、クラフトビールが成長を続けていたからである。2000年代半ばから、クラフトビールメーカーは再び増え始め、数量においても金額においても、シェア(市場占有率)を上げていたのだ。「バドワイザー」をはじめビッグブランドが低迷するのを尻目にである。また、アメリカほどではないが、日本でもクラフトビールのムーブメントは起きていた。

 同時期、キリンでもクラフトビールを立ち上げるプロジェクトが始まっていく(『クラフトビールは日本のモノ作りを変えるのか』参照)。

「ビールは、ピルスナーだけではない。麦芽、ホップ、そして酵母との組み合わせにより、ワイン以上にバリエーションは豊富にできる。さらにコーンやハーブ、フルーツなどの副原料を使うと味もスタイルも限りなく広がる」

 サッポロ社内でもキリン社内でも、概ねこんな議論が巻き起こる。サッポロでは、ビールの新しい価値をつくるのを目指しクラフトビールプロジェクトが発足する。

 1年間の留学を終え14年8月に帰国した新井は、このチームに入り、クラフトビールの新商品を開発していく責任者となる。

 15年の年明け、サッポロビールの尾賀真城社長(現在はサッポロホールディングス社長)はクラフトビールへの参入を発表する。専門子会社を発足させて、原材料や製法にこだわったクラフトビールを開発していく、と積極展開する内容だった。

 3月18日、午後1時。東京都渋谷区の恵比寿ガーデンプレイス内にあるサッポロ本社。サッポロは、二種類のホップを使った「Craft Label 柑橘香るペールエール」を5月から発売する、と発表する。

 多様なビールを楽しみたいとするユーザーニーズに応えながら、大手メーカーが作るという安心感も提供する「ナショナルクラフト」がいわばコンセプトだった。

 会見には、発足した専門会社「ジャパンプレミアムブリュー」のマスターブリュワーという肩書きで新井も出席。「新しいビール文化をお客様と一緒につくっていきたい」などと発言した。

 さて、同じ日の午後3時、同じ渋谷区の代官山。ほぼ完成していた小規模醸造設備を併設したビアレストラン「スプリングバレー東京」で、キリンがクラフトビールの事業方針の記者発表を行う。このため、記者たちは徒歩やタクシーで移動した。相次ぐ大手の参入から「2015年はクラフトビール元年」といった声さえ浮上した。

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